そのままのきみがすき
 コンビニでビール二本と揚げ銀杏スナック、夕飯にナポリタンを買ってそれらが入ったエコバッグをプラプラさせながらエントランスまで帰ってくると、ちょうどどこかへ行く所なのだろうか、一人の人物とバッタリ出くわした。

 一八〇センチはありそうなすらっとした体躯にロンTとスウェットパンツを身に纏い、足元は私と同じクロックス。

 漆黒の重めの前髪と黒縁セルフレームが特徴の彼は、今までも何度かエントランスで出くわしたことのある同じマンションの住人だ。

 「こんばんは」

 「こんばんは」

 お互い会釈しすれ違う。

 バッタリ会う時、私は大抵最終形態のこの格好で。

 毎回お見苦しい姿でごめんなさいとは思うけれど、たまーにすれ違って挨拶を交わす程度なので特に改めるつもりはない。

 それにしても、黒縁のメガネと前髪が顔に掛かっているせいではっきりとは見えないながらも、あの人割とイケメンだと思う。

 それに声もすごく良い。ちょっと低めのハスキーボイスだけどとても滑らかな耳障りで、思わずもうちょっと聞いていたいと思ってしまうような……。


 ……ん?ちょっと待って。

 この声、私、ここ以外のどこかで聞いたことあるような……。

 どこでだったっけ……?

 でも、あのモサーっとした髪に黒縁メガネの彼の顔は記憶にないし……。

 うーん……。

 結局エレベーターの中でも思い出すことは出来ず、帰宅してからもしばらくあの声が何となく引っ掛かってはいたけれど。

 ナポリタンを食べ終わり、録画していた火曜十時枠の胸きゅんドラマを見ながら揚げ銀杏スナックをつまみに二本目のビールに突入した時には、その声のことはもうすっかり私の頭の中から消えていたのだった。
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