10人家族になりました!  もし芸能人だったら

第3話「カメラが回る日」

朝7時。
ピンポーン、とインターホンが鳴ったとき、リビングにはすでに数人が揃っていた。

柚は完璧なアイドルスマイルで、
「おっはよ〜! 今日も一日、がんばるよー☆」とカメラ目線。

結斗はテレビ用のセリフを練習中。
「ごはん、おいしいー! ママのごはん、せかいいちー!」
(※でも作ったのはお父さん)

怜はというと、キッチンの端で黙々と紅茶を淹れていた。
すっぴんでも凛とした佇まいで、思わずカメラマンがレンズを向けるけど、彼女は気づいていても、無視する。

そして私は。
カメラに映ってる自分をどこか客観的に見つめながら、胸の中でナレーションの練習をしていた。

「これは、芸能人10人がひとつ屋根の下で暮らす、リアルファミリードラマ。
今日も誰かが泣いて、誰かが笑う。
そして、ほんの少しずつ、本当の“家族”になっていく——そんな物語。」

「おはようございまーす! 撮影入ります!」

テレビ局のディレクターとスタッフが、ぞろぞろと家の中へ。
大小のカメラ、マイク、照明——一気に“現場の空気”が流れ込んできた。

「カメラ位置、ここで固定しましょう!」
「朝食のシーンは2カメで回します!」
「詩ちゃん、ナレーション入れながら喋っていいからね!」

……え?
ナレーション“入れながら”?
ってことは、私がリアルタイムで“語り手”になるってこと?

「ちょっと待ってくださいっ……!」
私は小声でお母さんにすがりついた。

「詩、大丈夫。あなたの“声”は、この家族の雰囲気を伝える鍵になる。だから無理はしなくていい。けど、やってみよう?」

お母さんの言葉は、魔法みたいにあたたかかった。

その瞬間、どこかで視線を感じた。

見ると、理人くんが廊下の影から、こっちを見ていた。
相変わらず無表情だけど——ほんの少しだけ、目が優しかった。



◆撮影スタート

朝食シーン。

柚と綾人がカメラの前で軽快にトークを回し、笑いを取っている。
怜は何もしゃべらないけど、紅茶を飲む仕草すら絵になる。

私は、ナレーションを入れるタイミングを探していた。

「……えっと……」

「今日の朝食は、家族全員で。だけど、まだ“本当の家族”の会話は始まっていない。」

スタッフがうなずいた。
私の声が、画面の中の空気を変えているのがわかった。

そして——

「理人くん、ピアノの話してよ〜」と柚がふる。

「……別に」
「じゃあ怜ちゃんとセッションとか! ぜったい映えるよ!」

その瞬間、怜の手が止まった。
目線だけで、理人と交差する。

ピアニストと作曲家。
表と裏。音の世界を生きる、似ているようで交わらない二人。

だけど理人は、口の端をほんの少しだけ上げて言った。

「怜さんの音、昔から聴いてた。……ちゃんと、弾いてみたいと思ってたよ」

怜は何も言わず、立ち上がった。
そして、ピアノの椅子に腰を下ろす。

「じゃあ、合わせてみる? 今ここで」

空気が一気に変わった。
スタッフが目配せし、全カメラが向けられる。

そして——
静かに、二人の音が重なり始めた。

怜の繊細なタッチに、理人の即興的なアレンジが呼応する。
まるで、目に見えない会話をしているようだった。

それは、言葉よりもずっと深くて、やさしいやりとりだった。

「まだ知らない心の奥に、音が触れていく。
ふたりはきっと、過去にもどこかですれ違っていた。
だけど今、音楽が、彼らをつなげようとしている——」

私は、ナレーションを入れながら、少しだけ泣きそうになっていた。




◆ 再婚後初の家族会議(テレビ放送)

📺【ドキュメント特番】再婚初日の朝に密着!芸能人10人家族の新生活

🗨️ ファンの反応:
「詩ちゃんの“ナレーション”が本当に沁みる……泣いた」
「怜さんと理人くん、どっちもピアニストとか運命すぎて震える」
「柚ちゃんと綾人くんが息ぴったりで、将来の夫婦漫才にしか見えない(笑)」
「朱莉ママ、女優引退したのもったいなさすぎる…人柄が画面越しに伝わってくる」

SNSでは「#芸能人10人家族」が一時トレンド1位に。
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