拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
バナージは手紙をもう一度最初から目でなぞる。
丁寧で美しい文字は、婚約していたときと変わらない。
(フィーヌの神恵が影響しているかどうか、結果はすぐに出るはずだ)
もしもフィーヌの神恵が影響しているなら……すぐにこの手に取り戻さなければならないと思った。
【ヴィラ歴424年9月】
バナージはこの日、屋敷から馬車で三時間ほどの場所にある、ダイナー公爵領の西のはずれ──ナルト山のふもとにいた。
急ごしらえで建てられた作業小屋から、落ち着きなく山肌を見つめる。
すると、バナージの視線の先から作業小屋に向かって足早に駆けてくる人影が見えた。
「旦那様、試掘作業が終わりました。さっそくこれが──」
走ってきた男──ダイナー公爵家で今鉱山管理を一任されているリベルテは、息を切らして片手を差し出す。
拳ほどの石をバナージは受け取る。見ると、ずっしりとした重みの石の中にキラキラとしたものが見えた。
「やったぞ。金鉱石だ」
「はい。金鉱石でございます」
リベルテはこくこくと頷く。
「出てきたのはこれだけか?」