拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 離縁したあとの貴族令嬢が生きていくのは容易ではない。フィーヌは屋敷を飛び出した際、宿屋で働いて生計を立てようとしていたが、プライドが高いレイナが同じようなことをできるとは到底思えなかった。

 となると残された道は、妻に先立たれた高齢の貴族の後妻、もしくは金を持っている貴族の愛人だ。
 どちらにしても、平坦な道ではない。
 
「まあ、わたくしには関係のないことです」
「そうだな」

 ホークはフィーヌの肩を抱き寄せる。

「ところでホーク様。素敵な宝物を授かりました」
「またダイヤモンド鉱山でも見つけたのか?」
「もっといいものです」

 フィーヌは口元に弧を描く。

「あなたの子供を授かりました」

 にこっと笑うとホークは呆けたような顔をする。そして、じわじわと喜びを実感したのか凛々しい表情をくしゃりと崩した。

「おめでとう、フィーヌ」
「きゃっ!」
 
 腰からぐいっと持ち上げられ、フィーヌは悲鳴を上げる。

「ホーク様。下ろしてください」
「悪い。つい、嬉しくて」

 バツが悪そうに頬を掻くホークを見て、フィーヌは胸の内が温かくなる。

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