拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
(俺に捨てられるのが怖くて、何をされても文句のひとつも言えなかった憐れな女だ)

 いつもバナージからの連絡に大喜びで返事を書いてくる。きっと、今も自分のことを愛しているのだろうと、バナージは確信していた。

(なんなら、今回の件の礼として愛人にしてやってもいいかもしれないな)
 
 フィーヌはつまらない女だったが、顔は文句なしの美人だったから愛人にするにはもってこいだ。
 愛してもいない夫と辺境の地にいるより、公爵である自分の愛人になったほうがフィーヌも幸せなはず。
 
 そこまで考えたとき、バシンと大きな音がして執務室のドアが開け放たれた。

「旦那様! フィーヌ様よりお手紙が届きました」

 ダイナー公爵家の鉱山管理人──リベルテの報告に、バナージはにっと口角を上げる。

(予想通りだ。フィーヌは俺から離れられない)

「かせ!」
 
 バナージは使用人の手から手紙をひったくるように奪うと、封を切った。

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