拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
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バナージ・ダイナー様

拝啓 秋風の候、貴殿におかれましては如何お過ごしでしょうか。
お手紙ありがとうございます。
 
ダイナー公爵家の鉱山の産出量が減っている件については、本当に大変なことでございますね。心中お察し申し上げます。
あなたはよくお手紙に『俺の期待していることを、きみならわかっているはずだ』と書かれていましたね。
ですのでわたくしなりに考えた結果、もうこれ以上のお手伝いはご遠慮させていただきたく存じます。

だって、わたくしが〝役立たず〟であると吐き捨てたのは、あなた様ではありませんか。
わたくしは自分の身のほどをわきまえておりますのでご安心くださいませ。
貴殿におかれましては、きっとご自慢の溢れる才能を存分に発揮して事業を発展させることでしょう。

せっかくなので、わたくしの近況をお伝えさせていただきますね。
わたくしは今、とても幸せに暮らしております。
静かで穏やかな毎日、優しく信頼できる人々に囲まれ、何ひとつ不自由のない暮らしに、かつて王都にいた頃には味わえなかった幸せを感じております。
 
あなたがわたくしとの婚約破棄を宣言したあの日、偶然舞踏会の会場で控え室に閉じ込められたことは本当に幸運でした。だって、そのおかげであなた様と婚約破棄して今の旦那様に出会えたのですから。
悪意が幸運に変わるなんて、皮肉な巡り合わせですね。
ですので、あの日のことは水に流してあげます。ふふっ、ありがとうございました。
これに関しては、もう十分に恩返しさせていただいたと考えております。
 
さて、長くなりましたがお互いに別の道を歩んでいることですし、どうかこれを最後のご連絡とさせてください。
妹のレイナと末永くお幸せに。

フィーヌ・ロサイダー

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