拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 レイナは甘えるように、バナージの腕にぴたりとくっつく。

(やっぱり女はこうでなくっちゃ)

 バナージは心の中で思う。
 フィーヌは美人ではあったが、可愛げがなかった。いつも凛として澄ましており、甘えることはない。それどころか、生意気にもバナージの行動を諭してくることすらあった。

 その点、フィーヌの妹であるレイナは甘え上手で愛嬌がある。フィーヌより少し幼さが残る顔立ちで、自分を慕ってくっついてくるような可愛い女だ。

「でも、お姉様の神恵は『土の声を聴ける』です。敵対してしまって大丈夫でしょうか?」

 レイナは不安そうにバナージを窺い見る。

「敵対? レイナ、俺たちは敵対などしていない。彼らに裏切られ傷つきながらも、その行為を許して友好関係を築こうとしている善良な一市民だ」
 
 レイナは目をぱちくりとさせたが、すぐにバナージの意図に気付いたようだ。

「あら、そうでした。わたくしったら勘違いして、申し訳ありません」
「いや、いいんだ。可愛いレイナ」

 バナージはフィーヌに不貞行為の汚名を着せて婚約破棄をしたが、それ以上彼女を追い込むつもりはない。そうしたほうが、〝寛大な次期公爵〟と周囲の人間に強く印象付けられるからだ。
 
(フィーヌの奴、まんまと騙されて落ち込んでいたな。俺に楯突くからこういうことになるんだ)

 何もかも自分の思い描いた通りに進み、喜びが込み上げる。
 今夜はいい夢が見られそうだ。
 
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