拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「いくら自分の立場を守りたいからって、わたくしやバナージ様に責任を押し付けるなんて──」
「押し付けてないわ。事実を述べたまでよ」
「まだそんなことを! お姉さま、あんまりです。見損ないましたわ」
ぐすんとでも言いたげに目をうるうるとさせ、レイナは訴える。
「見損なう? その言葉、そのままお返しするわ」
フィーヌが言い返したのと同時に、部屋にドンッと鈍い音が響く。ショット侯爵が拳で机を叩いたのだ。
「ふたりとも、やめなさい!」
ショット侯爵は声を荒らげる。
「とにかく、ダイナー公爵家からフィーヌとの婚約破棄、およびレイナへの婚約申し込みが来ているのは事実だ。これがどういう意味だか分かるっているのか!?」
「もちろんです。公爵家からの申し入れとなれば我が家が断れないことは承知しております」
フィーヌは神妙は面持ちで答える。
本当は笑顔で「喜んで破棄しますわ! ふたりともお幸せに!」と言いたいところだが、さすがにそれは自重した。
「ダイナー公爵家は今回のフィーヌの浅はかな行動に対して、ひどくお怒りになっている。レイナはそれでいいのか?」
ショット侯爵はレイナを見る。
「わたくしにできることなら、喜んでお受けします。バナージ様はお姉様のひどい仕打ちにとてもショックを受けていました。これからはわたくしがしっかり支えていき、両家の橋渡しをしたいと思います」
レイナは胸に手を当てて熱弁する。
あたかもフィーヌの尻拭いをするために自分が犠牲になるかのような言い草だ。
我が妹ながら、このねじ曲がった性格は誰に似たのだろうかと驚きを禁じ得ない。
「そうか……。フィーヌもそれでいいな?」
「婚約破棄については謹んでお受けする旨、昨晩既にバナージ様にはお伝えしております。帰宅が深夜だったため、お父様へのご報告が遅くなったことについては申し訳ありませんでした」
フィーヌはショット侯爵に深々と頭を下げる。
バナージとはもう二度と関わりたくないので、この話もさっさと切り上げたかった。