拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

 ショット侯爵はレイナとフィーヌを交互に見つめ、はあっと深いため息を吐く。

「理由はどうであれ、ダイナー公爵家から不興を買ったことは事実だ。フィーヌは三カ月間、謹慎して反省するように」
「はい」
「では、ふたりとも部屋に戻りなさい」

 フィーヌは深々とお辞儀をしてから、部屋を出る。ドアが閉まる間際、隙間から見えるレイナが口元に笑みが浮かんでいるのを見逃さなかった。

 
 
 
 休憩室に閉じ込められる事件が発生してから二週間が経った。
 貴族院への婚約解消の届け出も受理され晴れて婚約者不在となったフィーヌは、お気に入りのソファに座ってふうっと息を吐く。

 「ようやく婚約解消できて、清々するわ。これから何して過ごそうかしら?」

 ひとりごとを呟く声が明るくなってしまうのはご愛敬。
 あんなクズみたいな男とようやく婚約破棄できたのだ。これが喜ばずにいられようか。

(でも、結婚はまだいいかな)
 
 今年で二十歳になったフィーヌは、貴族令嬢としては今まさに結婚適齢期を迎えていた。
 いつまでも独り身の娘が屋敷にいては家族に申し訳ないので結婚相手を探す必要があるのはわかっているが、元婚約者の印象が悪すぎて、しばらく婚約などしたくない。

 それに、今回の婚約破棄の理由が理由だけに、フィーヌが条件の良い縁談を掴むのは難しいだろう。
 心配した友人が教えてくれたのだが、どうやらバナージはあの日の一件を自分の都合がいいように歪曲して社交界で話して回っているようだ。
 その証拠に、ここ数日で何通か来た男性からの手紙は全て既婚者や婚約者がいる人からだ。きっと、フィーヌのことを身持ちが悪くちょうどいい遊び相手になる女だとでも思っているのだろう。

< 23 / 193 >

この作品をシェア

pagetop