姫と騎士のめぐりあい
彼はハンカチを取り出し、そっと拭った。
「怖かったな……もう大丈夫だ。俺がいるから。」
その声は驚くほど優しく、
いつもの皮肉も、挑発もなく、
ただ包み込むようだった。

その夜。
アカデミーの寮の医務室で、包帯を巻かれながら、
エリザベートはじっと窓の外を見つめていた。
(なぜ……誰が、私を?)
不安と恐怖が胸を締めつける。
そんな中、扉をノックする音。
入ってきたのは、もちろん――ヴァルタザール。

「少し、様子を見に来たんだ。」
「ありがとう。……助けてくれて、本当に。」
「当然のことをしただけさ。」
彼は少しだけ目を伏せ、そしてふと微笑んだ。
「俺は……君に何かあれば、きっと後悔する。」
「……ヴァルタザール」
その名前を呼ぶとき、胸の奥が熱くなる。

不思議だった。
彼の瞳の色も、声の響きも――
なぜか懐かしく、
どこか、あの人を思い出させる。

けれど、エリザベートは気づかない。
その優しさの裏に潜む影を。
そして、その視線がどこか冷たく計算されていることを。

ヴァルタザールはそっと、彼女の包帯に触れた。
「……もう少しだけ、俺を信じてくれ。」
「ええ。あなたがいてくれて、心強いわ。」
微笑み合う二人。
夜風がカーテンを揺らし、
遠くで教会の鐘が鳴った。

――それは、崩壊への前奏曲だった。
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