恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
――それは、娘を守る言葉ではなかった。

まるで、“余計な事をするな”と牽制するような。

「お前が我が名を汚すことがないように。それだけだ。」

私はただ、黙って頭を下げるしかなかった。

でも――
心のどこかで、私は思っていた。

帝は、私を“春野”と呼んでくださった。

あの沈丁花の香りに包まれた、たった一度の記憶が、胸の奥であたたかく灯っていた。

そして私は、翌日より中宮様の侍女となった。

といっても、仕事が急に変わるわけではない。

房の掃除、衣の管理、香の準備など、雑士女の頃と似たような役目がほとんどだった。

それでも、中宮様の御前に仕えるという緊張感は、否応なく私を包んだ。

「春野、よく来てくれた。」

中宮様は、あたたかく声をかけてくださった。
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