恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
母のことなど、とうに忘れているくせに。

「それで、帝に顔を見られたと聞いた。」

突然の問いに、私は背筋を伸ばした。

「……はい。」

帝と目を合わせてしまったこと――まさか父の耳にも届いていたとは。

父は小さくため息をついた。

「実はな。中宮様より、お前を侍女に召したいとの申し出があった。」

「えっ……」

中宮様付き――それは、宮中でも限られた女房だけが許される栄誉。

私のような雑仕女には、決して縁のない世界のはずだった。

「だが、忘れるな。」

父の声が急に低くなった。

「どんなに器量が良くとも、帝に見初められるようなことがあってはならぬ。」

その言葉に、胸が冷えた。

「……なぜ、ですか。」

「帝は“高貴なる血”の姫を娶るもの。雑士女など、許されぬ。」

そう言いながらも、父の目は冷ややかだった。
< 18 / 44 >

この作品をシェア

pagetop