恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
帝はふっと微笑むと、何気ない素振りで立ち上がった。

そして、ゆっくりと私の方へ歩を進めてくる。

心臓が鳴り響く。どうしよう。逃げられない。

ここに隠れていたことが、もう知られてしまう。

私は慌てて頭を垂れた。

心はざわめき、ただ一つの願いが頭をよぎる。

——どうか、この想いが知られませんように。

けれどそれは、帝の足音によって裏切られていくようだった。

柱に帝がいらした時、ふと歩みが止まった。

「見ぬふりを しても隠れぬ 花の香に こころの行方 今日もさまよふ」
(訳:見ないふりをしていても、花の香りのように君の気配は隠せない。私の心は今日も君のもとをさまよっている)

心が帝を捉えて離さなかった。

「咲くともに 摘む手は持たぬ 野の花は ただ風に揺れ 香をおくるのみ」
(訳:たとえ咲いていても、摘まれることのない野の花は、ただ風に揺れて、香りを届けるだけのものです)

そして帝は行ってしまった。

私の知る事のない場所へ。
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