恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~
帝の問いに、私は思わず息を止めた。

「いいえ。いまだ我が侍女にございます。」

そう中宮様は答えた。まるで、帝の気まぐれを流すように。

それでも、帝の香りは変わらなかった。沈丁花。

あの雨の日と同じ香りが、ふと風に運ばれて私の胸を締めつける。

忘れようとしているのに。慕ってはいけないのに。

香りは、記憶を呼び覚ましてしまう。

「そうか。朕は嫌われたかのう。」

帝のぽつりとした呟きが、静かな房に響いた。

その言葉が私の胸を突いた。嫌うなんて、とんでもない。

それどころか——私は、帝を……

思いが込み上げて、つい柱の陰から顔がのぞいてしまった。

その瞬間だった。
目が合った。

まさか。帝と、確かに目が合った。

柱の影からでも、その光は逃れられなかった。
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