婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 その三人掛けのソファの右側に、制服姿のセドリックが腕と足を組んで座っていた。光を紡いだような金色の髪は艶やかに輝き、眉間から鼻先へと流れる高い鼻梁と引き締まった口元には、気高さが漂う。だが、澄んだ空を思わせる青い目は、鋭くエステルを睨みつけていた。
「お呼びでしょうか? セドリック様」
 彼がエステルを生徒会室に呼び出すのは珍しい。なによりエステルは生徒会役員ではないからだ。
「ああ。君に伝えておきたいことがあるんだ」
 そう言うものの、彼の視線は鋭利なまま。組んでいた腕を解き肘掛けに置くと、そのまま気だるそうに頬杖をつく。
「エステル。君との婚約を解消したい」
 一瞬、エステルは息をするのを忘れた。時が止まったかのように、室内はしんと静まり返る。トクトクと心臓だけが音を立てる。何を言われたのかと、目を大きく見開く。
「……どうしてですか?」
 静寂を打ち破るエステルの悲痛な声。だが、それを尋ねる権利はあるはずだ。セドリックからの一方的な婚約解消宣言。なぜそのようなことを彼が口にしたのか、さっぱり心当たりがない。
「どうして? なるほど……やった側の人間というのはすぐ忘れるのか。まぁ、やられた側はいつまでも覚えているものだが、な」
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