婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 ギデオンの丁寧な祝辞に、エステルはどこかくすぐったい気持ちになった。アドコック領で気軽に話していた頃とは違い、改まった口調が新鮮だった。
「セドリック殿下、年寄りのわがままを一つだけ叶えてくださいませんか?」
 ギデオンの言葉にセドリックも笑顔で応える。
「妃殿下、どうか一曲、お相手願います」
「エステル、ギデオンがこうやって誘うのは珍しいんだ。辺境のひきこもりだからな」
 セドリックが軽く笑いながら、エステルの背を優しく押した。
「ギデオン様、あのときはお世話になりました」
「もう、エステルと気軽には呼べないな」
 その口調は二年前のあのときと変わりない。
「あのとき、私はセドリック様に捨てられて、不幸のどん底に突き落とされた気分でした。それでもギデオン様が受け入れてくださって……雪玉を投げ合ったりとか、楽しかったです」
 エステルの声には、懐かしさと感謝が込められていた。
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