婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 まるで昔から知り合いだったかのように話し始めた彼女に向かって、ジェームスが指摘する。
「あ、ごめんごめん。私、アビー。あなたが言ったように、魔導職人。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「立ち話もなんだから、中に入って。あ、ジェームスは戻っていいわよ。あなたは私に用はないのでしょう?」
「ええ、そうですね。旦那様からは、エステル様をアビーさんに紹介するように言われただけですから」
「じゃ」
 そう言いつつも、アビーは犬猫を払うように、しっしっと手を振っていた。失礼な行為だが、ジェームスが何も言わないところを見ると、それが許される仲なのだろう。
「失礼します」
 エステルは恐る恐る部屋に入った。この室内にどれだけ高価な魔導具や材料があるかわからない。
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