婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
 そこでギデオンがジェームスにチラリと視線を移してからエステルを見た。それでは雪かきの後に身体が痛いと言っているのはジェームスだと伝えているようなものだ。
「今のところは、痛みはありません」
 幸いなことに、ちょっと腕が重いだけで痛いという感覚はなかった。
「……そうか。では、あたたかいうちにいただこう」
 いつもはパンを一つしか食べないエステルも、今日は朝から身体を動かしたせいか、三つも食べてしまった。
「そういえば、ジェームス」
 食後の紅茶をいただいているときに、ギデオンが低い声でジェームスに話を振った。
「どうやら、エステルが私と結婚するためにここに来たと、そんな噂が流れていたようだ……」
 ゴホンとジェームスはわざとらしい空咳をした。
「さ、左様ですか……」
 普段のジェームスとは異なり、どこか態度がおどおどしている。何かを隠しているようにも見えた。
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