私たちの関係は変わらないと思っていた。

18時半、定時を少し過ぎてPCの電源を落とした綾香(あやか)はすぐさま帰宅の準備をして会社を飛び出した。この業界には珍しく残業が少ないホワイト企業だと密かな人気だが、少ないだけで当然残業はある。綾香は女性向けのアプリゲームやコンテンツを扱う会社に新卒で入って2年目、プランナーとしてコンテンツの企画、制作、運営に携わっている。そして今は人気シリーズの新章の配信を控えていた。そのリリースのための準備が大詰めなのもあってここ1週間は定時に帰れないどころか21時を過ぎての帰宅になっている。そのせいで今週はまだ彼の顔を見れていない。今日こそは、という確固たる意志を持って綾香は蒸し暑い空気を浴びながら急ぎ足で駅に向かった。

目指す場所は実家から徒歩10分のところにある喫茶店「星の雫」。レトロな外観が目を引く、綾香が子供の頃からある店。店そのものの雰囲気が好きなのもあるが、綾香の目的はもっと別のところにある。早歩きをしたせいで乱れた息と少し崩れた髪を整えた綾香はゆっくりとドアを開ける。チリンチリン、とドアベルの音に反応して1人の男性が出て来た。

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