私たちの関係は変わらないと思っていた。

「いらっしゃいま…綾香?」

癖のない黒髪に涼やかな目元、鼻筋の通った端正な顔立ちの、しかし接客業には適さない無愛想な男性が綾香の名を呼ぶ。

「こんばんは、大我(たいが)くん」

「こんばんは、今週来るの初めてじゃね?」

「うん、ちょっと忙しくて」

「だろうな、顔見れば分かる。無理して来なくて良いんだぞ。休めよ」

こちらを気遣ってくれていると分かるのだが、彼…成瀬大我(なるせたいが)の言葉は素っ気ない。付き合いが長いから問題ないが、彼の人となりを知らないと冷たいと思われがちだ。本当は誰よりも優しい人なのに…。綾香はとんでもない、と首を横に振る。

「無理してないよ。寧ろここに来るとリラックス出来て疲れ吹き飛ぶんだ。それに気分転換もしたかったし」

「ふーん、なら良いけど。ほら、いつもの席空いてる」

綾香の説明にあっさりと大我は納得し、チラリと窓側に視線をやった。

「ありがとう」

大我に案内され、空いている時は必ず座る窓側の奥の席に座る。そのまま響に注文を聞かれたので「アイスココア」と言うと「はい、いつものですね。少々お待ちください」と答え、カウンターの奥に消えて行った。綾香は鞄からPCを取り出し件の企画データに目を通し、これで大丈夫なのか今一度確認しにかかる。ずっとPCと睨めっこしていたから目が疲れたな、と目頭を抑えた後ずらりと並ぶ文字を追う。後で目薬を差そう、とポーチをカバンから出しておく。

奥には店長の野宮(のみや)と遅番のバイトがいるはずだ。日によっては、この店のオーナーで大我の叔父でもある(あきら)がいることもある。飲み物を持ってくるとしたら彼等かもしれないが出来れば大我が良いな…と仄かな期待を抱いていると願いが通じたらしい。ココアを手にした大我が奥から出て来てテンションが上がった。
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