月夜に吠える、君の名を

第1話 月明かりの出会い

月が、いかにも大きく見えた夜やった。
山奥の小さな村。
都会から来たあんたは、宿も取らずに迷い込んだんやろ?
暗い山道を歩いてたその姿を、偶然……
いや、必然やったんかもしれんけど……
俺は見つけた。

『こんな時間に、どこ行くんや』
声をかけた瞬間、あんたは驚いて振り向いた。
街灯もろくにない道で、月明かりに照らされた俺の姿を見て、普通なら悲鳴を上げるはずや。
尖った耳、銀色の毛並み、黄金色の瞳。
人間やない証拠が全部顔に出てる。
けど、あんたは……
逃げんかった。
「……あなたは、人間じゃないですよね?」
その声は震えてなかった。
むしろ、俺を試すみたいやった。

胸の奥が、ズキンと痛んだ。
俺はずっと化け物やと蔑まれてきた。
人と関わるのは御法度。
まして、女に正面から見られるなんて……。
『人間やないけど、人間でおりたいとは思てる。』
自分でも何言うてるか分からん。
けど、あんたの瞳は俺の言葉を否定せんかった。

「もしよかったら、私の案内をしてくれませんか?」
あんたは月に照らされながら笑った。
その笑顔は、牙よりも鋭く、俺の心を貫いた。

遠くでフクロウが鳴いた。月はますます白く輝く。
この夜から、俺の呪いは別の形で膨らみ始めたんや。
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