月夜に吠える、君の名を
第2話 獣道の案内人
『ほな、ついてき。』
俺は振り返り、あんたを月明かりだけが照らす細い道へと導いた。
足元は草と小石だらけやけど、あんたは転びもせんとついてくる。
普通の人間なら、こんな山道は怖がるはずやのにな。
『この道は、昔から“獣道”って呼ばれてる。』
「獣……ですか?」
『そうや。俺みたい奴が通る道や。』
冗談めかして言うたつもりやったけど、あんたは笑わんかった。
代わりに、静かに俺の横顔を見つめてた。
その視線に、胸がざわつく。
あんたの瞳は、俺の牙も爪も否定せえへん。
まるで全部、受け入れてくれるみたいや。
やがて、木々の隙間から小さな村が見えた。
古びた家々、煤けた瓦、灯りはちらほら。
「ここが……あなたの村なんですね」
『せや。俺はここで生まれて、ここから出たことない。』
その時、村の奥から人影が現れた。
年配の男や。
俺の顔を見た途端、眉間に皺を寄せてあんたを睨む。
【……外の人間を連れ込むな、健。】
声は冷たく、刃物みたいに突き刺さった。
あんたは戸惑った顔をしたけど、俺は答えずに男をやり過ごした。
胸の奥で、古い呪いの重みがまたずしりとのしかかる。
この村で、外の人間が長く生きられることは……ない。
でも、その夜の俺はまだ……
あんたを手放す気なんて、これっぽっちもなかったんや。
俺は振り返り、あんたを月明かりだけが照らす細い道へと導いた。
足元は草と小石だらけやけど、あんたは転びもせんとついてくる。
普通の人間なら、こんな山道は怖がるはずやのにな。
『この道は、昔から“獣道”って呼ばれてる。』
「獣……ですか?」
『そうや。俺みたい奴が通る道や。』
冗談めかして言うたつもりやったけど、あんたは笑わんかった。
代わりに、静かに俺の横顔を見つめてた。
その視線に、胸がざわつく。
あんたの瞳は、俺の牙も爪も否定せえへん。
まるで全部、受け入れてくれるみたいや。
やがて、木々の隙間から小さな村が見えた。
古びた家々、煤けた瓦、灯りはちらほら。
「ここが……あなたの村なんですね」
『せや。俺はここで生まれて、ここから出たことない。』
その時、村の奥から人影が現れた。
年配の男や。
俺の顔を見た途端、眉間に皺を寄せてあんたを睨む。
【……外の人間を連れ込むな、健。】
声は冷たく、刃物みたいに突き刺さった。
あんたは戸惑った顔をしたけど、俺は答えずに男をやり過ごした。
胸の奥で、古い呪いの重みがまたずしりとのしかかる。
この村で、外の人間が長く生きられることは……ない。
でも、その夜の俺はまだ……
あんたを手放す気なんて、これっぽっちもなかったんや。