月夜に吠える、君の名を
第7話 血の匂い
枝が折れる音と同時に、鹿の悲鳴が森に響いた。
健の銀色の体が月明かりを裂き、獲物に覆いかぶさる。
爪が肉を裂く音、牙が骨を噛み砕く音……全部が耳に刺さった。
あんたは足を止めたまま、目を逸らせなかった。
ただの野生の獣やない。
そこにいるのは、さっきまで人間の言葉で自分の名を呼んでくれた……健さん。
「……やめて……」
か細い声が漏れた。
その瞬間、健の肩がびくりと揺れた。
黄金の瞳がこちらを振り向く。
その口元は、赤黒い血で濡れていた。
「あ……」
言葉を探そうとしたけど、喉が詰まった。
けど、逃げようという気持ちはなぜか湧かなかった。
健はしばらくあんたを見つめていたが、やがてゆっくり獲物から離れた。
月明かりに照らされるその背中は、巨大で、そして……どこか寂しそうやった。
『……見せたくなかった。』
低く押し殺した声が、獣の喉から漏れた。
それは謝罪のようで、自分を責める呟きのようでもあった。
風が血の匂いを運び、夜の森をさらに冷たくする。
あんたは一歩近づき、健の腕にそっと触れた。
「……それでも、私は離れない」
その言葉に、健は何も答えず、ただ月を見上げていた。
健の銀色の体が月明かりを裂き、獲物に覆いかぶさる。
爪が肉を裂く音、牙が骨を噛み砕く音……全部が耳に刺さった。
あんたは足を止めたまま、目を逸らせなかった。
ただの野生の獣やない。
そこにいるのは、さっきまで人間の言葉で自分の名を呼んでくれた……健さん。
「……やめて……」
か細い声が漏れた。
その瞬間、健の肩がびくりと揺れた。
黄金の瞳がこちらを振り向く。
その口元は、赤黒い血で濡れていた。
「あ……」
言葉を探そうとしたけど、喉が詰まった。
けど、逃げようという気持ちはなぜか湧かなかった。
健はしばらくあんたを見つめていたが、やがてゆっくり獲物から離れた。
月明かりに照らされるその背中は、巨大で、そして……どこか寂しそうやった。
『……見せたくなかった。』
低く押し殺した声が、獣の喉から漏れた。
それは謝罪のようで、自分を責める呟きのようでもあった。
風が血の匂いを運び、夜の森をさらに冷たくする。
あんたは一歩近づき、健の腕にそっと触れた。
「……それでも、私は離れない」
その言葉に、健は何も答えず、ただ月を見上げていた。