涙のあとに咲く約束
「ねえ、総務の藤堂さんって、やっぱりシングルファーザーなのかな」
「らしいよ。ほら、この間、子どもを連れて歩いてるの見たって人がいたじゃない」
総務の藤堂さん……確か、藤堂係長は背の高い、落ち着いた雰囲気の男性だ。
総務部と経理部は同じフロアにあり、毎朝合同で朝礼を行っているので、その時にフロアの人たちの顔を覚えた。
藤堂さんは、いつも黙々と仕事をしていて、あまり話す機会がない。
「ふーん……結婚指輪はしてないけど、ああいう人って人気あるよね」
「うん。仕事もできるし、物腰やわらかいし……でも、あんまり笑わないよね」
お湯の出る音とともに、先輩たちのひそひそ話は続いていく。
私はお茶を淹れ終えて、軽く会釈をして給湯室を出た。別に人の噂に口を挟む気はないけれど、「シングルファーザーらしい」という言葉だけは、頭のどこかに残った。
その日の退勤後。
まだ外は明るく、初夏の空気が少し蒸し暑い。私は仕事帰り、スーパーに寄って晩ごはんの食材を買う予定だった。
駅へ向かう人混みの中、ふと視線の先に見覚えのある背中が見えた。
お昼に先輩たちが噂をしていた藤堂さんだ。
黒いスラックスに白いシャツ姿、片手に紙袋。もう片方の手には、先輩たちが口にしていたように、小さな男の子がいて、その手をしっかりと握っている。
男の子は五歳くらいだろうか。半ズボンにリュック姿で、何やら一生懸命話しながら歩いている。藤堂さんは小さく頷きながら、静かに耳を傾けていた。
「らしいよ。ほら、この間、子どもを連れて歩いてるの見たって人がいたじゃない」
総務の藤堂さん……確か、藤堂係長は背の高い、落ち着いた雰囲気の男性だ。
総務部と経理部は同じフロアにあり、毎朝合同で朝礼を行っているので、その時にフロアの人たちの顔を覚えた。
藤堂さんは、いつも黙々と仕事をしていて、あまり話す機会がない。
「ふーん……結婚指輪はしてないけど、ああいう人って人気あるよね」
「うん。仕事もできるし、物腰やわらかいし……でも、あんまり笑わないよね」
お湯の出る音とともに、先輩たちのひそひそ話は続いていく。
私はお茶を淹れ終えて、軽く会釈をして給湯室を出た。別に人の噂に口を挟む気はないけれど、「シングルファーザーらしい」という言葉だけは、頭のどこかに残った。
その日の退勤後。
まだ外は明るく、初夏の空気が少し蒸し暑い。私は仕事帰り、スーパーに寄って晩ごはんの食材を買う予定だった。
駅へ向かう人混みの中、ふと視線の先に見覚えのある背中が見えた。
お昼に先輩たちが噂をしていた藤堂さんだ。
黒いスラックスに白いシャツ姿、片手に紙袋。もう片方の手には、先輩たちが口にしていたように、小さな男の子がいて、その手をしっかりと握っている。
男の子は五歳くらいだろうか。半ズボンにリュック姿で、何やら一生懸命話しながら歩いている。藤堂さんは小さく頷きながら、静かに耳を傾けていた。