涙のあとに咲く約束
 私はすれ違うだけのつもりで歩みを進めたが、そのとき男の子の手から絵本がするりと落ちた。

 ぱたん、とアスファルトに音を立てて落ちる。

「あっ……」

 気づいた私は咄嗟にかがみ、絵本を拾い上げた。表紙には可愛らしい動物の絵。

「落としましたよ」と声をかけると、男の子がくりくりした目で私を見上げた。

「ありがと、おねえちゃん!」

 ぱっと笑ったその顔は、あまりにも無垢で、思わず私も笑顔になる。
 
「どういたしまして」

 藤堂さんが「すみません」と低い声で礼を言った。近くで見ると、長いまつげと端正な顔立ちが際立つ。
 でもその表情には、少しだけ戸惑いが混じっていた。

「いえ……藤堂さん、今ご帰宅ですか?」

 藤堂さんは私が名前を呼んだことで、ようやく私が同じ会社の人間だと気付いたようだ。
 
「ええ。保育所の迎えです」

 案の定、藤堂さんは短い返事で会話が途切れた。声を掛けたことが迷惑だったのかと不安になるけれど、その声は思っていた以上に柔らかかった。

 それ以上は踏み込むのも失礼かと思い、「お気をつけて」とだけ言って別れた。

 歩き出すと、なんとなく胸の奥が温かくなった。
 小さな子どもがあんなふうに笑う顔、久しぶりに見た気がする。


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