涙のあとに咲く約束
 週明けの月曜日。
 朝の通勤電車の中で、私は不思議と藤堂さんと男の子のことを思い出していた。

 子どもがあんなふうに懐いてくれるのは珍しい。
 前職の職場にも、たまにお客さんとして小さな子どもが来たけれど、知らない大人を警戒する子も多かった。

 そう考えると、あの男の子は人懐こい性格なのかもしれない。
 それとも、藤堂さんの育て方がそうさせているのか。

 答えはわからないまま会社に着くと、エントランスで偶然藤堂さんと鉢合わせた。
 
「おはようございます」

「おはようございます」

 ほんの数秒のやりとり。でも、私の一日は少し明るくなった。


 その日の帰り道、私はスーパーに寄らず、少しだけ遠回りをして帰ることにした。

 昨日と同じように保育所帰りの親子が歩いてくるかもしれない。
 そう思った自分に気づき、苦笑する。

 別に待ち伏せしているわけじゃない。ただ、同じ道を選んでいるだけだ、多分……

 自分に言い訳をするように歩を進めていると、角を曲がった時に、遠くに藤堂さんの姿が見えた。
 でも、今日は男の子の姿がない。

 不思議に思いながらも少し歩み寄って挨拶すると、「今日は母に迎えを頼んだんです」と説明してくれた。
 そして、ほんの一瞬だけ迷ったあと、こう続けた。
 
「……あの、またどこかで会ったら、あの子にも声をかけてやってください」

 不意に胸が熱くなった。
 
「はい、もちろんです!」

 たったそれだけの約束。
 でも、私にとっては、これがきっと小さなきっかけになる——そんな予感がしていた。
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