涙のあとに咲く約束
真一(しんいち)、会社の松下さんだよ。この前絵本を拾ってくれた優しいお姉さんがお見舞いに来てくれたよ」
 
 藤堂さんが私のことを紹介しても、真一くんは力なく首を動かすだけだった。
 真一くんは熱があるのか、顔が赤い。

 私はキッチンを借りて、簡単に温められるスープを作り、薬を飲ませる手伝いをした。
 藤堂さんが用意していたレトルトのおかゆを、真一くんは一口ずつ口に運びながら、ゆっくりと嚥下する。
 子どもって本当に弱々しくなるんだな、と胸が締めつけられる。

「本当に助かりました。……ありがとう」
 
 片付けを終えると、藤堂さんがそう言って、私に深く頭を下げた。
 その目の奥にある安堵と感謝の色を見て、私は言葉が出なかった。

   * * *

 それから数日後の休日、私たちは三人で動物園に行った。
 金曜日に藤堂さんから通話アプリで『よかったら明後日の日曜日、動物園へ行きませんか?』とメッセージを受信した時、私はわが目を疑った。
 あれから元気を取り戻した真一くんが、「この前のお姉ちゃんと遊びたい」とねだったらしい。

 晴れ渡る空の下、真一くんはキリンに夢中になり、私の手をぎゅっと握っては「ほら、あれみて!」と笑顔を向ける。
 藤堂さんがそんな真一くんを見守る横顔は、とても優しかった。
 ふと、その光景の中に自分が溶け込んでいることに気づき、胸の奥が熱くなる。
 
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