最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!

転校してきたイケメン吸血鬼がまさかの隣の席!?


※ ※ ※

私、朝日(あさひ)ひかり!中学二年生!何処にでもいる普通の女の子……とはちょっと違う。


なぜなら、特技は空手。黒帯を持ってるだけで、クラスじゃ"ゴリラ女"なんてしょうもないあだ名をつけられている。

(あーあ。ちょっとは女の子として見てほしいな……なんて。ありえない話だよね)


私は頭をぶんぶんと横に振り、大きな十字路の交差点近くにあるパン屋さんに視線を向ける。


毎朝、家の中からでもわかるくらい、いい匂いがするパン屋さん。


ここのパン屋さんの大人気商品は、なんといってもメロンパン!
甘くてサクサクで……

(ぅぅ、想像しただけでよだれが出てきちゃった。えへへ、一つくらいなら買ってもいいよね?)


なんて呑気なことを考えていたら……

(ん……?待って。メロンパンが売られる時間帯って、ちょうど予鈴が鳴る十分前じゃ……)


ヤバイヤバイ!遅刻する!!


通学カバンを肩にかけたまま、私は曲がり角を勢いよく走る。


(こっちからの方が近道なんだよね!)

今日は青い晴天!


いいことが起こりそうな予感!


遅刻しそうなのにも関わらず、るんるんとした気分で走っていると――



視界の先に、横断歩道の真ん中で立ち止まっているおばあちゃんがいた。


信号が点滅し、赤になろうとしている。

危ない――!!


「おばあちゃん、こっちです!!」

迷ってるひまなんてない。私は一気に駆け寄って、おばあちゃんの手を取った。


転ばせないように細心の注意を払いながら。



(毎日の稽古がまさか、こんな時に役立つなんてね)

私とおばあちゃんは、なんとか赤になる前に向こう側へ着く。

「お、お嬢ちゃん、ありがとうね……!」



「へへ、大丈夫てすよ! お気をつけて!」

深くお辞儀してくれるおばあちゃんに一礼して、私はカバンを肩に掛け直した。



そして再び、駆け足で学校へと向かった。



学校に着くと、私は急いで廊下を歩く。



道中、チラッと壁際を見ると「走るの禁止!」と書かれているポスターが貼ってあった。


普段なら廊下をゆっくり歩いた方がいいんだろうけど。


その下に小さな文字で緊急時は仕方ないため駆け足なら許します、とあったから問題ないよね。


教室のドアが見えたとき、ちょうどチャイムが鳴った。



(よかった! 間に合ったみたい)


勢いよくドアを開けると、クラスメイトたちの視線が一斉に私に向いた。

「お、ゴリラ女。また朝から走ってんな〜」


「今日は何人投げ飛ばしてきたんだ?」

クラス内の男子たちが、いつものように軽口を叩いてくる。


「私のことなんだと思ってるの!?」と言い返してやりたかったが、いちいち相手にするのもめんどくさいし、気にせず席に向かった。


(ほんっっと、男子って子供っぽいよね!)



「ゴリラ女」――



空手が強くて、力も男子とほとんど変わらない私は女の子として見られるわけもなく。


昔から「守ってあげたい」っていうより、「守ってもらいたい」と言われる日々。

(どうせ私は可愛くないゴリラ女だもんね……)


ショボンと肩を落としながら席に着いた瞬間、担任の先生が教室に入ってくる。


「今日は転校生を紹介するぞー」


先生の言葉に視線をドアの方へ向ける。


するとそのすぐ後ろに、スラッと背の高い男の子が立っていた。


脚が長くてスタイル抜群!髪も綺麗で、お人形さんみたい。


芸能人のような整った顔立ちの転校生に、みんなが息をのむ。


(髪の毛おしゃれだなぁ。今どきの男の子って感じする……!)

私は思わず、名前も知らない男の子から目が離せなくなった。


(綺麗な人……男の子だよね……?クラスの男子と全然違うかも)

かげくんの大人っぽい空気感に教室全体がざわつく。


特に女の子たちは、小さく、「キャァ!」と歓声を上げたり、「え、かっこいいかも!」
「わかるー!なんか大人っぽいよね!」なんて言いながら、友達同士で盛り上がっていた。


そんな中でも転校生の男の子は涼しげな表情を浮かべて先生の隣で黙って立っている。


「はいはい、静かになー」


先生が手をパンッと叩くと、少しずつクラスの騒ぎがおさまっていく。

「さっそくで悪いが……自己紹介、お願いできるか?」


隣にいる先生の言葉に転校生の子が一歩前に出る。



「――黒瀬かげ。よろしく」


たったそれだけ。

かげくんはそれ以上口を開く素振りはなかった。


一瞬、空気が静まる。


かと思えば、またもやクラス中が歓声に包まれた。



「黒瀬……かげ……?」


黒瀬(くろせ)かげくん。


思わず小さな声で復唱する。

普段なら男子とか絶対興味ない!


子供っぽいし、デリカシーないし!


でも、この時だけはクラスの子たちと同じだった。


私ふくめてクラス中の皆が、かげくんのことを見る。


先生が「コホン」と軽く咳払いをして、ゆっくりと口を開
く。


「あーそれでなんだが……黒瀬は、吸血鬼だそうだ」



「「えええぇぇ!!」」




クラスの子たちがみんな同じ反応をする。


もちろん、私も。


(吸血鬼、ほんとにいるんだ……)


吸血鬼と言えば……確か、世界中に数百人くらいしかいないって聞いたことがある。



(詳しいことはわかんないけど……)



特に日本では、もうほぼいないとも言われているらしい。

(そんな人と同じクラスになって、これから毎日顔を合わせるだなんて……ちょっと信じられないな)



「まったく……騒ぎすぎだ」


先生はクラスの子たちの反応を伺うと、苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。



「まぁ、気持ちはわからなくもないがな。それじゃ……」


そして、教室全体を見渡す。


「席は……ちょうど、朝日の隣が空いてるな」


(え……!! 私の隣に男の子!? ちょっと待って!)


私の心の声など、聞こえるはずもなく……


どんどんこっちに向かって歩いてくるかげくん。



(うわぁぁ……近くで見ると本当に綺麗……)



目の前にきたかげくんをまじまじと見つめてしまう。


するとかげくんもじーっと視線を向けてきた。


(なんでそんなにこっちを見てくるの……!? 私の顔になにかついてるとか? そんなに見られたら緊張しちゃう……!)

今まで男の子にこんな見られることなかったから、なんて言ったらいいかわからない。


そんな私の視線を受け止めたまま、かげくんは静かに自分の席へと向かっていった。

(不思議な子……)

私はついつい、かげくんを目で追ってしまっていた。


「何してんだよ、バーカ。早く座れって」


背中から聞きなれた声が聞こえてくる。



……振り返ると、ムカつく顔があったの!



後ろの席にいるのは、白鳥霞くん。(しろとりかすみ)


家がおとなりで、小さい頃からずっと一緒なんだ。


こういうのを幼なじみっていうのかな?


「おはよう、霞くん」


先生に注意されないよう声のトーンを落として、霞くんに挨拶をする。


「今日もギリギリじゃん。また稽古してたのか? このままだと、男子よりムキムキになるんじゃね?」


ニヤニヤしながらこっちを見てくる霞くん。


(悪いヤツじゃないんたけど、昔からちょっといじわるなんだよね!)


「ふんっ! 霞くんには関係ないでしょ!」


霞くんの言葉に、心の中でモヤモヤを抱えながらもつい強がってしまう。


(はぁ……素直になれずに強がっちゃうとこ、昔からの悪い癖なんだよね……こんなの全然女の子らしくないよ……って、そんなの気にしてたら負けだもんね! 切り替えなきゃ!)


私は、嫌なことを取っ払うように自分の頬をパンッ! と強く叩く。



(よし! 今は授業に集中しないと!)
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