最強スパダリ吸血鬼が私を運命の人だと言って離してくれない!
初めてのドキドキ
※ ※ ※
授業の終わりを告げる音が鳴り響くと同時に、例の転校生の元に何人ものクラスメイトたちが集まっていた。
それも特に女の子たちが。
みんな"吸血鬼のかげくん"に夢中みたい。
そりゃそうだよね。
ニュースとか雑誌でしか見たことない人種がいきなり同じクラスになるんだもん。
騒ぎたい気持ちもわかるよ。
「ねえ、黒瀬くん! どこから転校してきたの?」
「吸血鬼が血を飲むのって本当!?」
みんな興味津々って感じで、かげくんに質問を浴びせている。
(……すごいなぁ、かげくん。転校初日でもう人気者じゃん)
私は自分の席に座ったまま、その様子をぼんやりと眺める。
それにしても――
かげくんの周りだけ、空気がちょっと違う気がする。
教室の中は暑いはずなのに、どこかひんやりしていて。
笑っているクラスメイトたちと、温度差を感じるような……
そんなことを思っていると、ふいにかげくんと目が合った。
真っ赤な瞳が、じっと私を見つめ続ける。
(な、なんであんなに見てくるの……!?)
かげくんの視線に耐えきれなくなった私は慌てて顔を背けて"空手ノート"を取り出す。
(かげくんと目があったこと、他の子たちにバレてないよね……? ぅぅ、かげくんの顔が見れないよ……! ――よし! こういうときは空手のことを考えるのが一番!)
私は心を落ち着かせるためにガサゴソとカバンの中から空手ノートを取り出して、パラパラとページをめくる。
そこには、空手の基本的な構えやリラックスできるストレッチのやり方などがイラストつきで書かれていた。
その下には、父からのアドバイスもあった。
"どんな状況でも慌てるのは良くない。深呼吸をして精神を落ち着かせること"
"人は守りたいものができたときに強くなれる"など、ありがたい言葉がいっぱい綴られている。
(すぅ……はぁ……うん、落ち着いてきたかも)
頭がすっきりしてきたところで、「キーンコーンカーンコーン」とチャイムが鳴る。
私は慌てて空手ノートを机の下に突っ込んだ。
先生が教室に入ると、かげくんに質問攻めをしていた女の子たちが渋々、自分たちの席へと戻っていった。
私も前を向いて授業に集中しようとする。
※ ※ ※
授業が始まってからずっと隣から視線を感じる。
(なんか見られている感じがするのは気のせい……? 休み時間の時も今もずっと……)
シーンと静まり返っている教室の中。
聞こえてくるのは、教科書やノートをめくる音と先生の穏やかな口調。
時々、男子たちの悪ふざけをしている笑い声も耳に入ってくる。
(うるさいな……)
でも、一番うるさいのは……きっと、私の心臓の音だよね。
さっきから鼓動がドクドクと鳴っている。
時計の針が、まるで止まっているかのようにゆっくりとしか進まない。
(かげくんがこの教室にきてから、なんかおかしいかも……男の子のことをこんなにも考えたことなんてなかったし! 授業に身が入らないことだってなかった! もう……全部、かげくんのせいだよ……)
頭の中でもんもんとかげくんのことを考えちゃう。
そんな私を悩ませる元凶のかげくんはというと――
すました顔でノートを取っていた。
(……なんでそんなに普通でいられるの? 私だけ気にしてるみたいじゃん!)
なんて、また余計な感情が脳に浮かぶ。
気づけば、あっという間に一日が終わろうとしていた。