この夏をまってた。
深呼吸して、私はゆっくりと口を開いた。

「あのね、ゆーひ」
「うん」
夕陽は何を言っても受け止めてくれる。
ちゃんと聴いてくれる。

今も変わらない、優しい目元が、口調が、安心した。
「あいねえに彼氏ができたの」
「うん、うん?」
夕陽の目がまん丸になっていた。
口元も不自然な笑顔だ。
少々、唐突過ぎただろうか。
その反応が面白くて、少し肩の力が抜けた。

「私ね、その碧山先輩を一年の時に一目見て、それから、ずっと、好きだったの」
「……うん」

夕陽の顔が、切なく歪む。

少し潮が満ちてきた海の波に私は足を滑らせた。
夕陽に抱きしめられたまま、私は後ろに倒れる。

至近距離で見た夕陽の顔は、日が沈みかけているからか、何処か寂しそうに影が差していた。

「ごめん、ゆーひ」

慌てて立とうとすると、夕陽の腕の中に閉じ込められる。

「オレ、まいが、好きだよ」

太陽の光で茶色に透けて見えるその髪は、独りよがりな哀しい顔を隠しきれていなかった。
「私……は……」
私の中では、どちらも終わった恋だ。

今更……。
夕陽はゆっくりと立ち上がって、私に手を差し伸べた。
私を見下ろす目は、琥珀色に輝いていた。

夕陽は、いつも誰にだって優しい。

私がずっと好きだった人。

そんな彼の手をとりたかった。

でも、夕陽の優しさを利用している気がして。

私は海の水が行き来する砂浜に手をついて、立ち上がった。
「……ごめん……夕陽は、大切だから……、利用するみたいなこと、できない」

夕陽の表情が、哀しい笑顔に変わる。

「そっか」

昔は言葉を発せずとも通じ合えた、心があたたかかった沈黙は、今、気まずい沈黙に変わっているのが分かる。

すると夕陽が、あの時よりずっと大きくなった手いっぱいに海の水を溜めて、私に満面の笑みで、それをかけてきた。

「ひゃい!?」

顔中に、まだ7月初旬の、冷たさが残る海水をかけられ、変な声が出た。
「暗い話ばっかだと、楽しいことを忘れるから!」
昔と同じきらきらした笑顔で、夕陽は言った。

__また、気を遣わせてしまった。

夕陽を傷つけてしまったのに。
暗い気持ちが押し寄せてくる。


気がつくと私は、夕陽に向かって大量の海水をかけていた。
「ちょっ、まい、かけすぎ!しょっぱいって!!」

と言いつつ、夕陽は、全力な笑顔で私に海水をかけた。





 ____夕陽はいつも、優しい。

だから、もう、頼りっぱなしじゃ、だめだ。

自分でしっかりと立って、夕陽の気持ちにちゃんと向き合いたい。

そんな自分に、なるんだ。



さっきまでの気持ちも、涙も、海水と紛れて何処かに行ってしまった。

固く結んだ決意だけを、胸に強く刻んで。

< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop