歴代最強のオヒメサマ

【椿side】

うるうるとした大きな黒目。

あまり表情の変わらない彼女の、眉の下がった貴重な顔がまっすぐ自分を見つめているなんて、限界ファンを自称する智哉には効果覿面だろう。


現に、真っ赤な顔でハンドルに顔面を打ち付けているし。


打ち付けた衝撃で勢いよくクラクションが鳴る。


……一体どれだけの勢いでぶつけたんだか。


ぶつけたせいか、はたまた彼女のせいか。

鼻血を垂れ流しながら、瞳孔を開いて運転する姿は誰がどう見てもドン引き。


「翡翠さん。馬鹿は放っておきましょう?」
「……つばきぃ」


そんな恨めしいような目で見られても。

智哉にはご褒美だろうに。


翡翠さんに見えないように、ふんっと鼻で嗤う。

俺が紳士の皮を被るのは翡翠さんの前だけだから。
< 68 / 160 >

この作品をシェア

pagetop