十六夜月のラブレター
「私と話したことはあるんですか?」

「もちろん。マジで憶えてないの?」

「はい……ごめんなさい」

「いいよ。尋問続けて」

コースの料理が次々と運ばれはじめ、私たちは食事をしながら取調べのような会話を続けた。

入谷さんが焼酎や日本酒も注文してくれてお酒もすすんでいく。

入谷さんはお酒が強くて私も注がれるまま飲んでいったからすっかり酔ってしまった。

でも酔うにつれてだんだんと入谷さんの顔を見られるようになった。

顔の骨格も大人の男性として出来上がっていて、そこから中学生以前の姿を想像するのは無理だ。

酔っていたからか私は思ったそのままを言葉にしていた。

「入谷さんて、イケメンですよね」

「何それ? もしかして誘ってるの?」

「いいえ、まったく」

「だよね。めっちゃ淡々と言ってるもんね。普通そういうのって、もっと恥じらいながらとか、好き好きモードで言うもんじゃない?」

「いえ単純に造形的に不備がないなと。そりゃあキラキラ女子の皆さんが夢中になるのもわかります。彼女さんとかいるんですか?」

「いないよ。学生時代は女遊びもしてたけどもう飽きちゃった」

飽きちゃったなんてさすが陽キャエリート営業部員の鑑。

「皆さんが噂してたのが聞こえてきたんですけど、どうして大阪本社の最年少課長昇進の打診を蹴って東京支社に来たんですか? 自ら都落ちしてるようなものなのに」

「都落ち!」

入谷さんは楽しそうに笑ったあとまっすぐに私を見つめると、真剣な表情で言った。

「君に会いたかったから」

「えっ?」
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