十六夜月のラブレター
「あ! 今、口を滑らせましたね。そっか、中学生の時に会ってるんだ」

「誘導尋問上手いんだから。敏腕刑事さん」

しかし、入谷さんのことは思い出せなかった。

それ以上入谷さんの自白も引き出せないまま、取調べのような食事会はお開きとなった。

約束どおり入谷さんが会計を済ましてくれる。

「すみません、本当に御馳走様でした」

「どういたしまして。俺さ、こっち来たばかりだから新しく接待用の店とか開拓したいんだよね。また付き合ってくれる?」

「でも私、お支払いできません……」

「大丈夫。御馳走するから」

「それじゃあ、投資の損益がなくなったら必ずお返しします」

「なら早くご褒美もらえるように、俺のこと早く思い出してね」

「はい!」

「家まで送ってくよ」

お店から出た私達はタクシーを捕まえるため大通りに出た。

一台のタクシーがこちらに向かって走って来るのが見える。

私が捕まえようと道路の方へ出ようとした時、植え込みの木の根に躓いてバランスを崩し転びそうになった。

「あぶない!」

地面に倒れそうになった私を入谷さんが後ろから抱き止めてくれた。

「あっ、ありがとうございます」

抱き止めてくれている入谷さんの腕から逃れようとした時、入谷さんは私の身体に回している両手にさらに強い力を込めて抱きしめたまま言った。

「ずっと忘れたことはなかったよ、雪見ちゃん」

「え?」

頭の中が真っ白になる。
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