十六夜月のラブレター
爽やかな笑顔で挨拶する入谷さんに女子社員を中心に大きな拍手が起こる。

拍手しながら彼女達の視線がロックオンしているのは入谷さんの左手の薬指だ。

その薬指に光輝く結婚指輪はなかった。

そうとなれば今宵から、入谷さんの妻の座争奪戦が繰り広げられるだろう。

彼女がいる可能性の方が高いだろうけど、それくらいで諦めるキラキラ女子の皆さんではないはず。

毎晩一流企業の男性社員との飲み会をしてはハイスペ男子との出会いを求めているらしいから。

まあ私には、まったく関係のない話。

他人事のようにそんなことを考えながらぼんやりと皆の前に立っている入谷さんを見ていると、不意に目が合った。

さすが2年連続営業成績トップの超エリート営業部員の入谷さん。

惜しみない営業スマイルを私にぶつけてきた。

けれど、普段から無愛想な私にはそんなすぐに愛想笑いなんて返せない。

それなのに入谷さんはずっと私を見てきた。

なんか長いかも……。

不愛想でいるのが申し訳なくなって慌てて僅かに口角を上げる。

けれどその瞬間、入谷さんのとびっきりの営業スマイルは他の女子社員に向けられて彼女の瞳をハートにしていた。

私は無理矢理上げた口角をそっと元に戻した。
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