十六夜月のラブレター
午前の業務が終わり昼休憩の時間となったのでビルの屋上へと向かう。

対人関係が不得意な私は誰かと一緒に昼食を取ることはない。

雑談が苦手。気の利いたことをうまく言えないから。

その場限りの人とならまだいいけれど、仕事とはいえ毎日を一緒に過ごすキラキラ女子の皆さんたちとの雑談ほど難しいものはない。

私が中身も外身もつまらない人間だともうバレてるし。

それなら淋しい人間と思われようと一人でいる方が気楽で平穏だ。

屋上のベンチで軽い食事を取りながらスマホと睨めっこする。

なぜならこの時間は勝負の時間。株式市場をチェックしなければならないから。

社会人1年目の時、証券会社のセールスマンのいい鴨になってしまい、その人の言うまま株式投資をはじめて損益を抱えてしまった。

社会人6年目の27歳の今でも貯金はほとんどなくて、毎月のお給料で家賃や生活費を遣り繰りしている。

もうそのセールスマンの人とは関わってはいないけれど損益は残ったまま。

元金からのマイナス額は100万円を超えている。

せめて損益を元金まで戻したいけれど無理だろうなあ。

スマホでマイナスになった証券口座の画面を見ながらため息をついた時だった。

「あーあ、かなりの損益抱えてるね」

突然背後から声を掛けられて驚いて振り返ると、そこには入谷さんが立っていた。
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