十六夜月のラブレター

牽制

これから毎週末お仕置きデートをすることになったけれど、会社での入谷さんの態度はずっと私を無視するかのようだった。

見兼ねたキラキラ女王の柴田さんが「入谷さんにちゃんと謝ったの?」と心配してくれたくらいだ。

でもこれは超自覚イケメンだった入谷さんの作戦だから後ろめたい。

雪見との関係について入谷さんにはあれ以上聞かなかった。

二人の間に立ち入ることはできないし、入谷さんも話したくなさそうだったから。

まずは中学生の時の私が入谷さんとどこで会って何を話したかを思い出すことが最重要課題だ。

1回目のお仕置きデートは、ランチを食べて映画を見てお茶をしてという普通のデートだった。

いろいろ他愛もない話をしていくうちに、共通点があったりもして新鮮だった。

コーヒーを自分で豆から挽いて飲むのが好きだったり。

本を読むのが好きで私が好きな本をすでに入谷さんが読んでいたり。

でも、カフェで一緒に見た映画の感想をたくさん話したあと、お仕置きタイムは突如はじまった。

「で、俺のこと思い出せた?」

「それがまだ、思い出せてません」

「俺ってそんなに印象薄い男なんだ。よっぽど君のタイプじゃないってことだね」

「そんなことないです!」

「え?」

入谷さんは「え?」と言ったけれど、私も同時に心の中で「え?」と言っていた。

一体何を言ってるの!?

入谷さんがスルーしてくれるはずもなく、ニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくる。

「へえ、俺って君のタイプだったの?」
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