十六夜月のラブレター
入谷さんは私の真正面に立つと真剣に見つめてきた。

なんだか逃げ場がなくなって動けない。

「あ、あのっ、近いです」

「言ったでしょ? お仕置きデートだって」

あまりの近さに思わず後退りすると背中が壁にぶつかった。

すると入谷さんは片手を壁に伸ばして私にもっと近づいてきた。

これってもしかして壁ドンじゃ!?

「こうしたら、俺に興味がない君でもドキドキする?」

もっと入谷さんの顔が近付いてきた。

間違いなくドキドキしていた私は入谷さんの顔を直視することができなくて俯いた。

「あはは、ごめん。からかいすぎたね」

顔をあげるといつものいたずらっ子のように入谷さんが笑っていた。

「お仕置きされるの嫌だったら、早く俺のこと思い出してあげてね」

そう言って入谷さんは笑いながら離れていったけれど、ドキドキが止まらない。

あともう少し近付いていたら、この鼓動の音と速さが伝わってしまったくらいに。

その後入谷さんは家の前まで送ってくれた。

「送ってくれてありがとうございました」

「あのさ、今度は月見ちゃんの部屋でお好み焼きパーティーはどう? 俺大阪に引っ越してから自分で作れるようになったんだ。結構美味いよ」

「いいですけど、入谷さんちみたいに広くないしお洒落でもないですよ」

「そんなの全然いいよ。じゃあ来週のお仕置きデート決まり! 楽しみにしてるから」

嬉しそうにSモードの入谷さんが私を見つめてくる。

入谷さんにとって人の顔を見つめるなんて造作もないんだろうけど、人との距離感が遠めの私はどうしても慣れない。

「じゃあ、おやすみなさい」

逃げるように入谷さんに背を向けると片腕をうしろから掴まれた。

驚いて振り向くと、いつになく入谷さんが逡巡している。

「やっぱりさ、今から月見ちゃんの部屋、行ってもいい?」
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