十六夜月のラブレター
相変わらず会社での入谷さんの態度は私を無視するかのようだったけれど、今までとは違い作戦というより入谷さんの意思を感じた。

きっとこのまま個人的に話すこともなくなるだろう。

仕事が終わると最近見つけたコーヒー豆専門店に立ち寄り新しい豆を購入した。

飲んだことのない種類の豆を買うと気持ちがリセットされるから。

気分転換をして帰宅すると、家の前で入谷さんが待っていた。

「入谷さん! どうしたんですか?」

「この前君が淹れてくれるコーヒー、飲めなかったから」

手に提げていた買ったばかりのコーヒー豆の紙袋をそっと身体の後ろに隠す。

「ごめんなさい。今、豆切らしてて」

「そっか。あのさ、雪見ちゃん、俺のこと何か言ってた?」

ほらやっぱり。雪見のことが聞きたかったんだ。

雪見は入谷さんのことを好きと言っていたけれど、本人から聞いた方がいいよね。

「今度の週末、会うことになったって」

「ああ、話したいことがあってね」

「よかったですね! やっと雪見に会えて。このまま二人付き合っちゃえばいいのに。私、応援します!」

「え?」

「だって、雪見も入谷さんもずっとモテてきててお似合いだから。そしたらお仕置きデートも終わりにできるし」

私は努めて明るく言ったのに、入谷さんの表情は険しかった。

「それ、本気で言ってるの? そんなに俺とのデート、嫌だった?」

しまった。また入谷さんのモテ男のプライドを傷付けてしまったかも。

「あ、そういう意味じゃなくて。雪見と入谷さんがうまくいってほしいから」

「なんで?」

「なんでって、入谷さんは私を通して雪見を見てたんでしょ? 顔の造りだけは一緒だから」

「俺のこと、そんな風に思ってたんだ。なんか、ショック」
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