夜探偵事務所と八尺様
第四章:善意の過ち
第四章:善意の過ち
【民宿旅館 渓山荘・朝】
朝の光が
古い木造の食堂を
優しく照らしていた
夜と健太の前の座卓には
日本の正しい朝食が並んでいた
ふっくらと炊き上がった白いご飯
湯気の立つあさりの味噌汁
香ばしく焼かれた鮭の塩焼きと
ほんのり甘いだし巻き卵
そして
地元で採れたであろう新鮮な野菜の浅漬け
二人は静かに箸を進める
だがその思考は
すでに今日の調査へと向いていた
健太:「昨日の老婆の話が本当なら」
健太:「八尺様は四体の地蔵に守られて、この村で静かに眠っているはずですよね」
夜:「ええ。だとしたら話が繋がらない」
夜:「なぜ九条さんの息子が狙われるのか」
夜:「なぜ、かしき村の蔵に、地蔵のよだれかけがあったのか」
健太:「その謎を解く鍵が、四体の地蔵にあると」
夜:「そういうこと」
夜:「まずは、その地蔵が今どうなっているのか、一体ずつ確認するわよ」
夜は箸を置くと
部屋に貼られていた簡易な地図を指差した
夜:「この宿があるのが、村の西の端」
夜:「だから、まずは一番近い西の地蔵から確認する」
夜:「そこから時計回りに、北、東、そして最後に南。いいわね?」
健太:「はい!」
食事が終わり
二人は出発の準備を整えた
会計を済ませると
老婆が心配そうに二人を見送る
夜:「女将さん、昨夜はありがとう」
夜:「今から、その子供地蔵を見に行ってみます」
老婆:「そうかいな」
老婆:「……くれぐれも、気をつけるんじゃよ」
老婆:「また分からんことがあったら、いつでも聞きに来ておくれ」
二人は老婆に頭を下げ
朝の澄んだ空気の中へと足を踏み出した
【鎮女村・西の地蔵】
西の地蔵は
宿から歩いてすぐの
道のほとりに、ひっそりと佇んでいた
苔むした、小さな石の地蔵
だが、その首に巻かれた赤いよだれかけは真新しく
足元には綺麗な花が供えられている
夜:「……大切にされてるわね」
健太:「はい。民宿の女将さんが手入れしてるんでしょうか」
老婆の話の通り
この地蔵からは
穏やかで、清浄な気配しか感じられない
二人は次の目的地へと向かった
【鎮女村・北の地蔵】
北の地蔵は
意外な場所にあった
観光客向けに作られたのであろう
だだっ広い駐車場の、その片隅だ
古い地蔵と
真新しいアスファルト
その対比が
どこか奇妙な違和感を醸し出している
夜と健太が
その地蔵に近づいた、その時だった
夜:「……健太」
健太:「はい」
夜:「あれ、見て」
夜が指差す先
地蔵の首に巻かれた、赤いよだれかけ
その、右下の角が
まるで獣にでも食いちぎられたかのように
無残に、引きちぎられていた
健太:「……!」
健太は息を呑んだ
あの、かしき村の蔵で見つけた
ボロボロの、赤い布の切れ端
その記憶が、鮮明に蘇る
夜:「……間違いないわね」
夜:「九条さんが持っていたのは、ここの地蔵のよだれかけよ」
健太:「じゃあ、17年前に、九条さんがこれを…?」
夜:「ええ。そして、そのせいで、北の結界に『穴』が空いた」
夜:「八尺様は、その穴から、外の世界へ漏れ出し始めた…」
全ての謎が
一つの線で繋がった
だがそれは
あまりにも恐ろしく
そして、悲しい真実の始まりだった
【民宿旅館 渓山荘・朝】
朝の光が
古い木造の食堂を
優しく照らしていた
夜と健太の前の座卓には
日本の正しい朝食が並んでいた
ふっくらと炊き上がった白いご飯
湯気の立つあさりの味噌汁
香ばしく焼かれた鮭の塩焼きと
ほんのり甘いだし巻き卵
そして
地元で採れたであろう新鮮な野菜の浅漬け
二人は静かに箸を進める
だがその思考は
すでに今日の調査へと向いていた
健太:「昨日の老婆の話が本当なら」
健太:「八尺様は四体の地蔵に守られて、この村で静かに眠っているはずですよね」
夜:「ええ。だとしたら話が繋がらない」
夜:「なぜ九条さんの息子が狙われるのか」
夜:「なぜ、かしき村の蔵に、地蔵のよだれかけがあったのか」
健太:「その謎を解く鍵が、四体の地蔵にあると」
夜:「そういうこと」
夜:「まずは、その地蔵が今どうなっているのか、一体ずつ確認するわよ」
夜は箸を置くと
部屋に貼られていた簡易な地図を指差した
夜:「この宿があるのが、村の西の端」
夜:「だから、まずは一番近い西の地蔵から確認する」
夜:「そこから時計回りに、北、東、そして最後に南。いいわね?」
健太:「はい!」
食事が終わり
二人は出発の準備を整えた
会計を済ませると
老婆が心配そうに二人を見送る
夜:「女将さん、昨夜はありがとう」
夜:「今から、その子供地蔵を見に行ってみます」
老婆:「そうかいな」
老婆:「……くれぐれも、気をつけるんじゃよ」
老婆:「また分からんことがあったら、いつでも聞きに来ておくれ」
二人は老婆に頭を下げ
朝の澄んだ空気の中へと足を踏み出した
【鎮女村・西の地蔵】
西の地蔵は
宿から歩いてすぐの
道のほとりに、ひっそりと佇んでいた
苔むした、小さな石の地蔵
だが、その首に巻かれた赤いよだれかけは真新しく
足元には綺麗な花が供えられている
夜:「……大切にされてるわね」
健太:「はい。民宿の女将さんが手入れしてるんでしょうか」
老婆の話の通り
この地蔵からは
穏やかで、清浄な気配しか感じられない
二人は次の目的地へと向かった
【鎮女村・北の地蔵】
北の地蔵は
意外な場所にあった
観光客向けに作られたのであろう
だだっ広い駐車場の、その片隅だ
古い地蔵と
真新しいアスファルト
その対比が
どこか奇妙な違和感を醸し出している
夜と健太が
その地蔵に近づいた、その時だった
夜:「……健太」
健太:「はい」
夜:「あれ、見て」
夜が指差す先
地蔵の首に巻かれた、赤いよだれかけ
その、右下の角が
まるで獣にでも食いちぎられたかのように
無残に、引きちぎられていた
健太:「……!」
健太は息を呑んだ
あの、かしき村の蔵で見つけた
ボロボロの、赤い布の切れ端
その記憶が、鮮明に蘇る
夜:「……間違いないわね」
夜:「九条さんが持っていたのは、ここの地蔵のよだれかけよ」
健太:「じゃあ、17年前に、九条さんがこれを…?」
夜:「ええ。そして、そのせいで、北の結界に『穴』が空いた」
夜:「八尺様は、その穴から、外の世界へ漏れ出し始めた…」
全ての謎が
一つの線で繋がった
だがそれは
あまりにも恐ろしく
そして、悲しい真実の始まりだった