夜探偵事務所と八尺様
第八章:エピローグ
第八章:エピローグ
【鎮女村・民宿旅館 渓山荘・夜の部屋】
湯けむりをまとい
浴衣姿の夜が
ふわりと部屋に戻ってきた
温泉の熱で
白い頬はうっすらと桜色に染まり
湯上がり特有の
しっとりとした髪が
首筋にかかっている
普段のクールな雰囲気とは一変し
その姿は
息をのむほどに
艶めかしく
そして、どこか無防備で
見る者の心を
ドキリとさせた
夜:「ふぅー……スッキリ!」
夜:「長かった謎も、やっと全て解けたし」
夜:「あったかい温泉にも入れたし」
夜:「ほんとに、全部スッキリだわ」
夜は、満足そうに
細い指で
まだ熱い頬を軽く押さえた
健太:「あの……夜さん」
健太:「八尺様って、噂では、子供を何人も連れて行ったって話でしたよね?」
夜:「ああ、そんな噂もあったわね」
夜:「でも、ただの噂でしょ」
夜:「まぁ、もし本当に連れて行ったとしても」
夜:「あの感じだと、『深淵』に連れて行ったというのが妥当じゃないかしら」
健太:「深淵……って、そんな場所に、人間でも行けるんですか?」
夜:「深淵の住人が、無理やり連れて行こうと思えば、行けるでしょうね」
夜:「けど、長くは生きられないでしょうね」
健太:「それは……環境的にってことですか?空気が薄いとか、そういう?」
夜:「それもあるかもしれないわね」
夜:「でも、もっと問題なのは」
夜:「深淵には、人間を美味しいエサとしか思ってないような住人が、いっぱいいるのよ」
健太:「えぇ!?」
夜:「それが、深淵の住人の中でも、凄まじい力を持つ奴ら」
夜:「私たちは、そうね……『覚醒者』って呼んでるわ」
健太:「覚醒者……って、加奈ちゃんとか、今回の八尺様以上ってことですか!?」
夜:「そっ」
夜:「でもね、私とアキラが15年前に戦った土地神も、覚醒者よ」
健太:「そうなんですか!?あの時って、まだお二人は15歳だったんですよね!?」
夜:「ええ」
夜:「あの頃は、私たちも、まだまだ子供だったし」
夜:「あの土地神は、覚醒者の中では、きっと下っ端だったのよ」
健太:「もっとヤバい覚醒者も、いるってことですか……」
夜:「そうね……例えば、ルシファーとか」
夜:「日本でなら、崇徳天皇とか、平将門とか」
夜:「健太も、名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
健太:「ルシファー……」
夜:「そんなのが、こっちの世界にちょろっと来ちゃったら」
夜:「もはや、単なる災害よ」
健太:「アキラさんでも、無理なんですか!?」
夜:「……きっと無理ね」
夜は、少しだけ真剣な表情で、そう答えた
そして、ふと、何かを思い出したように
健太の方をじっと見た
夜:「……それより、田上健太」
夜:「あんた、なんでさっきから、ずっと壁の方を向いてるのよ?」
健太は
なるべく夜の方を見ないように
体を固くしていた
健太:「い、いえ……あ、あの……」
健太:「あんまり夜さんの方を見ると、またアキラさんに怒られるといけないので……」
その言葉に
夜は、いたずらっぽく、そして妖艶な笑みを浮かべた
夜:「なんだ」
夜:「今日は、ほんとに、見せてやろうと思ったのに」
その、挑発的な言葉につい
健太は、勢いよく後ろを振り返ってしまった
振り返った瞬間
目の前に
漆黒のオーラを纏った
巨大な死神
日(アキラ)が
腕を組み、仁王立ちしているのが見えた
健太:「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
健太は、床に頭を擦り付けながら
必死に謝り始めた
その光景を見て
夜は、堪えきれずに
腹を抱えて
大声で爆笑した
あははははははは!
あはははははははは!
その、生命力に満ちた
やかましくて
どこまでも楽しそうな笑い声は
古い宿の壁を突き抜け
鎮女村の、静かな夜空へと響き渡っていった
それは
70年という長い孤独の末に
ようやく我が子の元へと旅立った
一人の哀しき母の魂にも
きっと、届いただろう
まるで
「もう、大丈夫だよ」と
「あなたの分まで、私たちは、この世界で生きていくよ」と
そう、伝えるかのように
夜の笑い声は
いつまでも、いつまでも
京都の美しい夜空に
こだましていた
『夜探偵事務所と八尺様』
完
【鎮女村・民宿旅館 渓山荘・夜の部屋】
湯けむりをまとい
浴衣姿の夜が
ふわりと部屋に戻ってきた
温泉の熱で
白い頬はうっすらと桜色に染まり
湯上がり特有の
しっとりとした髪が
首筋にかかっている
普段のクールな雰囲気とは一変し
その姿は
息をのむほどに
艶めかしく
そして、どこか無防備で
見る者の心を
ドキリとさせた
夜:「ふぅー……スッキリ!」
夜:「長かった謎も、やっと全て解けたし」
夜:「あったかい温泉にも入れたし」
夜:「ほんとに、全部スッキリだわ」
夜は、満足そうに
細い指で
まだ熱い頬を軽く押さえた
健太:「あの……夜さん」
健太:「八尺様って、噂では、子供を何人も連れて行ったって話でしたよね?」
夜:「ああ、そんな噂もあったわね」
夜:「でも、ただの噂でしょ」
夜:「まぁ、もし本当に連れて行ったとしても」
夜:「あの感じだと、『深淵』に連れて行ったというのが妥当じゃないかしら」
健太:「深淵……って、そんな場所に、人間でも行けるんですか?」
夜:「深淵の住人が、無理やり連れて行こうと思えば、行けるでしょうね」
夜:「けど、長くは生きられないでしょうね」
健太:「それは……環境的にってことですか?空気が薄いとか、そういう?」
夜:「それもあるかもしれないわね」
夜:「でも、もっと問題なのは」
夜:「深淵には、人間を美味しいエサとしか思ってないような住人が、いっぱいいるのよ」
健太:「えぇ!?」
夜:「それが、深淵の住人の中でも、凄まじい力を持つ奴ら」
夜:「私たちは、そうね……『覚醒者』って呼んでるわ」
健太:「覚醒者……って、加奈ちゃんとか、今回の八尺様以上ってことですか!?」
夜:「そっ」
夜:「でもね、私とアキラが15年前に戦った土地神も、覚醒者よ」
健太:「そうなんですか!?あの時って、まだお二人は15歳だったんですよね!?」
夜:「ええ」
夜:「あの頃は、私たちも、まだまだ子供だったし」
夜:「あの土地神は、覚醒者の中では、きっと下っ端だったのよ」
健太:「もっとヤバい覚醒者も、いるってことですか……」
夜:「そうね……例えば、ルシファーとか」
夜:「日本でなら、崇徳天皇とか、平将門とか」
夜:「健太も、名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
健太:「ルシファー……」
夜:「そんなのが、こっちの世界にちょろっと来ちゃったら」
夜:「もはや、単なる災害よ」
健太:「アキラさんでも、無理なんですか!?」
夜:「……きっと無理ね」
夜は、少しだけ真剣な表情で、そう答えた
そして、ふと、何かを思い出したように
健太の方をじっと見た
夜:「……それより、田上健太」
夜:「あんた、なんでさっきから、ずっと壁の方を向いてるのよ?」
健太は
なるべく夜の方を見ないように
体を固くしていた
健太:「い、いえ……あ、あの……」
健太:「あんまり夜さんの方を見ると、またアキラさんに怒られるといけないので……」
その言葉に
夜は、いたずらっぽく、そして妖艶な笑みを浮かべた
夜:「なんだ」
夜:「今日は、ほんとに、見せてやろうと思ったのに」
その、挑発的な言葉につい
健太は、勢いよく後ろを振り返ってしまった
振り返った瞬間
目の前に
漆黒のオーラを纏った
巨大な死神
日(アキラ)が
腕を組み、仁王立ちしているのが見えた
健太:「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
健太は、床に頭を擦り付けながら
必死に謝り始めた
その光景を見て
夜は、堪えきれずに
腹を抱えて
大声で爆笑した
あははははははは!
あはははははははは!
その、生命力に満ちた
やかましくて
どこまでも楽しそうな笑い声は
古い宿の壁を突き抜け
鎮女村の、静かな夜空へと響き渡っていった
それは
70年という長い孤独の末に
ようやく我が子の元へと旅立った
一人の哀しき母の魂にも
きっと、届いただろう
まるで
「もう、大丈夫だよ」と
「あなたの分まで、私たちは、この世界で生きていくよ」と
そう、伝えるかのように
夜の笑い声は
いつまでも、いつまでも
京都の美しい夜空に
こだましていた
『夜探偵事務所と八尺様』
完


