聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~
 突然の竜王の襲来――それは王都を震え上がらせるには充分な効果だった。
 竜王が空に現れたのは王都の近隣だったこともあり、旅の冒険者や商人などがその姿を目にしたようだった。セシリーナたちが王都の門をくぐったときには、すでに都中が竜王復活の話題で持ちきりだった。

「……この様子だと、国王陛下への説明は簡単に済みそうだね」

 街中を見渡しながらヒースがぼやく。

「そのとおりだな。竜王ご本人が登場したとあっちゃあ、これ以上の説明は不要って感じだもんな」
「良かったんだか悪かったんだか……」

 首の後ろで腕を組みながらアベルが言う。その隣を歩きながらセシリーナも頷いた。
 王都に到着していったんツアー客と別れたセシリーナとアベル、ヒースの三人は、ただいま王城の向かっているところだった。ケルヴィンは王都に宿泊するツアー客の付き添いを務めてくれている。
 これから王城でシュミット伯爵とサージェント会長と落ち合うことになっていた。国王陛下に竜王復活の現状を伝えるためだ。

 辿り着いた王城は、全体的に白を基調として造られていた。白亜の石でこしらえた立派な柱が並び、床は薔薇色の大理石がふんだんに敷き詰められている。貴重な鏡が壁伝いに贅沢にあしらわれていて、その鏡に天井にしつらえられたシャンデリアの蝋燭の灯りが反射して眩しいほどだった。蝋燭だって庶民にとっては貴重品だ。もったいないからと一家に数本あるかないかという代物。その蝋燭がこれでもかというくらいシャンデリアに灯されていて、その贅沢にセシリーナは眩暈がしそうだった。
 王城など慣れたものであるのか前を歩くアベルとヒースは緊張の欠片も見えない。ふたりの堂々とした立ち振る舞いは田舎育ちの自分との違いを感じさせた。

 やがて大きな観音開きの扉に辿り着いた。おそらくここが謁見の間なのだろう。扉口の脇に待機していた門兵が緊張した面持ちを浮かべた。

「皆さま、長旅お疲れ様でございます。こちらが国王陛下との謁見の間でございます。陛下とシュミット伯爵、サージェント会長はすでに皆さまをお待ちになっておられます」

 そうして謁見の間へと足を踏み入れると、室内は細長い造りになっていた。薔薇色の大理石が床一面に敷かれ、奥の王座に向かって一直線に臙脂色の絨毯が伸ばされている。煌々と照り輝くシャンデリア群の明かりが、両壁に張られたガラス面にキラキラと反射していた。
 一段高くなっている王座には国王陛下が鎮座している。脇に控えるようにシュミット伯爵とサージェント会長が揃っていた。手と足が同時に出てしまいそうなほど緊張しながら、セシリーナはアベルとヒースに続いて陛下の御前に跪く。国王陛下が待ち侘びたように王座から立ち上がった。

「おお、皆の者、待っておったぞ。よくぞ無事にたどり着いてくれた。王都近郊で竜王に遭遇したと早馬の者から知らせがあってな、心配しておったのだ」

 陛下が、老齢になって皺の刻まれた目元を柔和に細めた。
 シュミット伯爵が自分の胸に片手を当てる。

「陛下、もったいないお言葉痛み入ります。陛下のおっしゃるとおり、我々は王都へ向かう道中で竜王本人と遭遇いたしました。しかしここにおる聖騎士アベルやクラーク一族の神官ヒース、サージェント商会の嫡男ケルヴィン、そして僭越ながら我が娘であり精霊使いとなった我が娘セシリーナが迎え撃ち、大きな被害もなく事なきを得ました」
「そうかそうか。新進気鋭の若者たちが竜王に臆することなく対抗できたということか。誠に頼もしい」
「恐悦至極にございます。本日は竜王に関していくつかご報告がございます。まずひとつめは――」

 そうしてシュミット伯爵は、
①魔獣の活性化傾向がみられること
②それに伴って復活した竜王に接触されたこと
③竜王の手に聖女が渡っていること
 ①から③までの内容を順を追って説明した。
 話し終えると、最後にシュミット伯爵がセシリーナを手で示す。

「このような状況の下、我が娘セシリーナは、このたび民間人が自由に町や村へ旅行できる旅行会社を起業いたしました。竜王復活のいま、各地域の物流を強化して経済の活性化をはかることはもちろんのこと、国民たちの危機意識の向上、そして情報のすばやい伝達と共有が対竜王への大きな対策となるはずです。その一角として旅行会社企画は今までにない利益を我々にもたらしてくれるはずと信じております」
「ほう。旅行とは新しい発想だな。面白い。私もできるかぎり支援させていただこう」
「ありがとうございます! よかったな、セシリーナ」

 シュミット伯爵が誇らしげにセシリーナを見やる。
 この瞬間、自分の旅行会社の活動は国王に認められたのだ。

「あ、ありがとうございます、陛下……!」

 セシリーナは目に涙を溜めながら頭を下げる。今までの自分の活動は無駄ではなかった。これからも自信を持って続けていっていいのだ。竜王に対抗するために。
 セシリーナは前に進み出る。

「陛下、わたくしなどには余りあるお言葉、誠にありがとうございます。このセシリーナ・シュミット、竜王を退け陛下のお国をお守りするため力を尽くしたく存じます」
「うむ。貴殿の旅行会社の事業だが、今より正式に国策とする。誰か、セシリーナ伯爵令嬢に資金を持ってまいれ」
(こ、国策!?)

 言葉を失っているセシリーナの肩に、アベルとヒースが両隣から手を乗せる。
 努力が実ってよかったな、ふたりの優しい表情がそう物語っていた――。
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