【書籍化】聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~
ヒースの背中を見送っていると、入れ替わるようにケルヴィンが歩み寄ってきた。
「セシリーナお嬢様、こちらにいらっしゃいましたか」
「ケルヴィン。はい、ちょっとヒースのことを呼びに来ていて」
「そうでしたか。宿屋の女将さんが、本日の夕食のご準備が整ったとのことで皆様にお越しいただきたいそうです」
「わあ、ありがとうございます! さっそく皆さんにお声がけしてきますね」
踵を返そうとしたセシリーナに、ケルヴィンが何か言いたげな視線を向ける。
「……ケルヴィン? どうかした?」
「いえ。お嬢様、差し出がましいようですが何かございましたか? お顔が優れないようでしたので」
「あはは、ケルヴィンには全部お見通しだなあ」
セシリーナは後ろ頭を掻く。彼とは長い付き合いだ。自分の表情の変化など手に取るようにわかるのだろう。自分は女神に対して疑念を抱いている。何か大事なことを隠しているのではないかと。けれどもそれを彼に相談するわけにはいかなかった。彼は自分が転生者であることを知らないのだから。
(……今はまだ話す時じゃないのかもしれない)
それでもいつかはケルヴィンやアベルに転生のことを話す機会が訪れるはずだ。いつまでも秘密にしておくわけにはいかない。これから真実を追っていく中でいずれは話すことになるだろう。
セシリーナはケルヴィンに頭を下げる。
「ごめんなさい。今はまだ相談できなくて……」
「お嬢様のタイミングで構いませんよ。私はいつまでも待っておりますで」
「ありがとう」
「お礼には及びません。それではお嬢様、今晩の宿に向かいましょう」
恭しく頭を下げるケルヴィンにセシリーナは頷く。
時が来たら必ずケルヴィンとアベルに事情を話そう――そう誓いながら。
「さあさあ、召し上がってくださいな!」
案内された宿は、周囲の家々と同様に石造りののっぺりとした建物だった。幾何学模様の描かれた臙脂色の絨毯が床全面に敷かれている。宿屋と食堂を兼ねているらしく、敷き物の上には背の低い大きな円テーブルがいくつか並べられていた。その上に色とりどりの異国の料理が美味しそうに湯気を上げている。どうやら地べたに直接座って食事をするスタイルらしい。それがまた異国の風情を感じさせた。
用意されている料理も、羊の肉をミンチにして串焼きにしたもの、豆とスパイスを煮込んでスープにしたもの、鮮やかな黄色のサフランライスに、蜂蜜をかけたヨーグルト――と王都ではお目にかかれない変わったものばかりだ。
良い香りが立ち込める食堂の入り口でセシリーナとユリアは歓声を上げる。
「わあ! どのお料理もすごく美味しそう!」
「ええ。初めて見るものばかりですわ。どんなお味なのかしら」
「セシィ、ユリア嬢! よろしければこちらのお席へ」
アベルが手招きしてくれ、セシリーナとユリアはアベルやヒース、ケルヴィンの座る席につく。セシリーナが彩り豊かな料理に目移りしていると、傍らに座るヒースが肩を竦めた。
「くれぐれも食べ過ぎないでよ」
「わかってますー! ところでヒース、村長さんとのお話は終わったんですか?」
「……いや、今日は触りだけだった。詳しくは明日以降に改めて時間を取ることになったんだ」
ヒースはそれだけ答えてさっそく異国のお茶を口に運んでいる。彼の様子を見るに、本当に詳しい話はできていないのだろう。別日を設けたということは、それだけ腰を据えて話さなければならないことなのかもしれない。
(少しでも彼が求めている答えに近づけるといいのだけれど……)
彼を自分の旅行会社に誘った手前、彼にも得るものがあるといいと思ってしまう。彼に恩返しがしたいのだ。自分は彼にずいぶんと助けてもらったから。
全員が食事の席に着いたところで、宿屋の女将が手を叩いた。
「皆様! 食事の前に女神に食前の祈りを捧げましょう」
「食前の祈り……?」
「この村特有の風習のようです」
首を傾げたセシリーナに、ケルヴィンが小声で教える。食前の祈りとは、言葉どおりに考えればこれからいただく食事に感謝の祈りを捧げることだろう。
女将が両手を祈るように組む。
「皆様、復唱してくださいな。――天におられる私たちの女神よ。命に感謝いたします。いただきます」
「いただきます」
全員が目を閉じて食前の祈りを唱える。不思議と静かで温かい気持ちになる。
まるで古き良き時代にタイムスリップしたように感じた。こうして村での初日が幕を開けた。
「セシリーナお嬢様、こちらにいらっしゃいましたか」
「ケルヴィン。はい、ちょっとヒースのことを呼びに来ていて」
「そうでしたか。宿屋の女将さんが、本日の夕食のご準備が整ったとのことで皆様にお越しいただきたいそうです」
「わあ、ありがとうございます! さっそく皆さんにお声がけしてきますね」
踵を返そうとしたセシリーナに、ケルヴィンが何か言いたげな視線を向ける。
「……ケルヴィン? どうかした?」
「いえ。お嬢様、差し出がましいようですが何かございましたか? お顔が優れないようでしたので」
「あはは、ケルヴィンには全部お見通しだなあ」
セシリーナは後ろ頭を掻く。彼とは長い付き合いだ。自分の表情の変化など手に取るようにわかるのだろう。自分は女神に対して疑念を抱いている。何か大事なことを隠しているのではないかと。けれどもそれを彼に相談するわけにはいかなかった。彼は自分が転生者であることを知らないのだから。
(……今はまだ話す時じゃないのかもしれない)
それでもいつかはケルヴィンやアベルに転生のことを話す機会が訪れるはずだ。いつまでも秘密にしておくわけにはいかない。これから真実を追っていく中でいずれは話すことになるだろう。
セシリーナはケルヴィンに頭を下げる。
「ごめんなさい。今はまだ相談できなくて……」
「お嬢様のタイミングで構いませんよ。私はいつまでも待っておりますで」
「ありがとう」
「お礼には及びません。それではお嬢様、今晩の宿に向かいましょう」
恭しく頭を下げるケルヴィンにセシリーナは頷く。
時が来たら必ずケルヴィンとアベルに事情を話そう――そう誓いながら。
「さあさあ、召し上がってくださいな!」
案内された宿は、周囲の家々と同様に石造りののっぺりとした建物だった。幾何学模様の描かれた臙脂色の絨毯が床全面に敷かれている。宿屋と食堂を兼ねているらしく、敷き物の上には背の低い大きな円テーブルがいくつか並べられていた。その上に色とりどりの異国の料理が美味しそうに湯気を上げている。どうやら地べたに直接座って食事をするスタイルらしい。それがまた異国の風情を感じさせた。
用意されている料理も、羊の肉をミンチにして串焼きにしたもの、豆とスパイスを煮込んでスープにしたもの、鮮やかな黄色のサフランライスに、蜂蜜をかけたヨーグルト――と王都ではお目にかかれない変わったものばかりだ。
良い香りが立ち込める食堂の入り口でセシリーナとユリアは歓声を上げる。
「わあ! どのお料理もすごく美味しそう!」
「ええ。初めて見るものばかりですわ。どんなお味なのかしら」
「セシィ、ユリア嬢! よろしければこちらのお席へ」
アベルが手招きしてくれ、セシリーナとユリアはアベルやヒース、ケルヴィンの座る席につく。セシリーナが彩り豊かな料理に目移りしていると、傍らに座るヒースが肩を竦めた。
「くれぐれも食べ過ぎないでよ」
「わかってますー! ところでヒース、村長さんとのお話は終わったんですか?」
「……いや、今日は触りだけだった。詳しくは明日以降に改めて時間を取ることになったんだ」
ヒースはそれだけ答えてさっそく異国のお茶を口に運んでいる。彼の様子を見るに、本当に詳しい話はできていないのだろう。別日を設けたということは、それだけ腰を据えて話さなければならないことなのかもしれない。
(少しでも彼が求めている答えに近づけるといいのだけれど……)
彼を自分の旅行会社に誘った手前、彼にも得るものがあるといいと思ってしまう。彼に恩返しがしたいのだ。自分は彼にずいぶんと助けてもらったから。
全員が食事の席に着いたところで、宿屋の女将が手を叩いた。
「皆様! 食事の前に女神に食前の祈りを捧げましょう」
「食前の祈り……?」
「この村特有の風習のようです」
首を傾げたセシリーナに、ケルヴィンが小声で教える。食前の祈りとは、言葉どおりに考えればこれからいただく食事に感謝の祈りを捧げることだろう。
女将が両手を祈るように組む。
「皆様、復唱してくださいな。――天におられる私たちの女神よ。命に感謝いたします。いただきます」
「いただきます」
全員が目を閉じて食前の祈りを唱える。不思議と静かで温かい気持ちになる。
まるで古き良き時代にタイムスリップしたように感じた。こうして村での初日が幕を開けた。