メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
「陽音、なんで気が付かないんだよ」
 陽音は首をかしげた。
「どちらさまでしょう」
「もう忘れたのかよ、薄情なやつだな」
 そうは言われても見覚えはない。かすかに声には覚えがあるような……。

 思った直後、血の気が引いた。
「淳太くん……?」
「そうだよ。お前、綺麗になったな」
 にたにたと笑う彼に、陽音の手が震える。
 彼はグルメ情報サイトで働いている。特集を組むときには店に足を運ぶと言っていたから、味の確認に来たのだろう。

「メシマズのくせに飲食店で働くとか。バイトか?」
 陽音はなにも言えずに、ただ首を振った。
 異変に気付いたのか、修造と絢子がこちらを見ている。

「お前がいなくなってから飯がうまくてな、おかげで太った。お前のせいなんだから責任をとって結婚しろよ」
「は!?」
 予想もしなかったセリフに、陽音は目を丸くした。
「そもそも結婚を考えていたから厳しく教育してやっていたんだ。なのに逃げ出しやがって。だからお前はメシマズなんだ。戻って来たら許してやる」

 陽音はなにも言えず、ぶるぶると首を振る。怒鳴られ、料理を薙ぎ払われたシーンがまざまざと蘇り、恐怖にすくんで動けない。
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