メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
「料理教室まで通って作ってくれて、それだけ愛されてるって嬉しかった。もっと陽音に愛されたくて、まずいって言ってたんだ」
 淳太は歪めた顔を陽音に向ける。
「別れるなんて本気じゃなかった。お前の料理を食べたい。愛してるんだ、陽音!」
 手を伸ばす彼に、陽音は首を振って一歩を下がる。

「私、ずっと苦しかった。好きだった料理が嫌になって。両親のもとに行こうかと思うほどに苦しんだ。なのに、なんて勝手なの!? 私はなんのために苦しんだの!?」
 悲痛な叫びに、乃蒼が彼女を庇って前に出た。

「太陽のような輝きを奪っておいて、今さら」
 淳太をにらむ乃蒼の脳裏に、初めて会った彼女の姿が浮かぶ。絶望のブラックホールに飲まれ、料理を泣きながら食べた彼女。
 そこまで追い込んだのはこの男なのだ。絶対に許せない。

「妻を脅迫したことは警察に被害届を出す。口コミに関しては威力業務妨害だ」
「それはご勘弁ください、慰謝料はお支払いします!」
 父親が慌てて頭を下げる。が、乃蒼は頷かない。
「金の問題ではありません」
 そう返されて、親はぐっと押し黙る。

「俺はただ、陽音を愛していただけなんだ……」
「愛だといえば何でも許されると思うの? バカじゃないの?」
 陽音は再び前に出た。乃蒼に守られて言うのはなにか違うと思う。ちゃんと自分で言いたい。

「目の前でオムレツを踏まれたとき、お母さんを踏みつけられた気持ちだった。トラウマがあるからってなにをしてもいいわけじゃない。私はあなたを許さない。愛してるのは乃蒼だけ。もう二度と関わらないで!」
 陽音の叫びに、淳太はがくりと膝をついた。
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