帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
「……美琴。」

名前を呼ばれた瞬間、逃げられないと悟った。

いけない。この瞳を見てはいけない。

そう思いながら目を閉じた時——唇が、そっと重なった。

「……暁宮様。」

名を呼ぶと、その腕がいっそう強く私を抱きしめた。

その抱擁に、もう抗う力は残っていなかった。

思ひきや 
遠しと思ふ 初恋の
 君のまなざし かくも近けむ

(思ってもみなかった。遠くにあるはずの初恋が、こんなにも近くで私を見つめているとは)

私は、暁宮様の瞳を見据えた。

近くとも 
手には取られぬ 花のごと
 香のみわたし 遠き初恋

(近くにあるようで、手に取ることはできない花のよう。香りだけが届く、遠い初恋です)

そう。私の初恋は。

こんなにも近くにあるのに、遠すぎて思いは叶わないのだ。

< 21 / 53 >

この作品をシェア

pagetop