帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
「今まで……ありがとうございました。」

短い言葉。けれど、こぼれ落ちそうな想いを、必死に飲み込んだ。

暁宮様の返事を聞く前に、私は踵を返す。

背に感じるのは、呼び止められそうな気配。

それでも振り向かない。振り向けば、きっと戻ってしまうから。

御簾の外へ出ると、廊下に冷たい風が流れていた。

その風をまとい、私は東宮御所を後にする。

――おそらく、二度とここに戻ることはないだろう。

心の中で、そっと和歌をひとつ結んだ。

離れども 心は君に とどめおき
 時至らばや 再びぞ逢はむ

その歌は、誰にも告げず、ただ胸の奥深くにしまった。
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