帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
「これきりでございます。」

私は最後に、涙をこらえて笑顔を作った。

せめて暁宮様の記憶に、笑顔の私を残したかった。

暁宮様はしばし私を見つめ、ゆっくりと息を吐くと、別れの和歌を詠んだ。

秋風の 便りをたより 待ちわびて
 君を迎へむ 春のあけぼの
(秋風に便りを託しながら待ち、春の夜明けに君を迎えに行く)

私はハッとした。――時が来たら迎えに行く。

その言葉が、暁宮様の瞳から溢れ出しているのを感じた。

まるで春の陽が差し込むように、温かく、まぶしく。

けれど、私は返事をすることができなかった。

待つと言っても、どれほど待てばいいのだろう。

一年か、十年か、それとも一生か――。

胸の奥で渦巻く不安が、喉をふさぐ。

「美琴。」

名を呼ぶ声が優しく響く。

その響きを胸に刻みながら、私は深く頭を下げた。
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