帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
節太郎ははにかんで頭を下げた。

「もう……東宮様のことは忘れたらいい。」

神主のその言葉に、私は何も言えなかった。否とは言えない。

「どうだろう、節太郎と結婚して、この神社を継ぐ気はないか。」

その提案が、胸の奥で何かを軋ませた。

忘れることができるなら、とっくに忘えている――そう心で呟きながら、私は俯いた。

「もう少しだけ……まだ想っていたいのです。あの方を。」

私の言葉に、神主は静かに頷いた。

「そうか。それもまた、おまえの道だ。」

その寛容さが胸に沁みた。

そうして、季節が幾度も巡る。

六年目の春が近づこうとしていたある日――。

「美琴、手紙が来ているぞ。」

差し出された封筒には、見慣れた端正な筆跡があった。

手が震える。久方ぶりに見るその文字を、指でなぞるだけで涙が滲む。

封を切る音が、やけに大きく響いた。
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