ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
1/ホームラン王子の電撃引退と、7年ぶりの再会
『ホームラン王子小出清貴選手、電撃引退!』
スポーツ新聞の一面を飾るのは、高校時代の同級生であり、最近何かと世間を騒がしている野球選手――小出清貴くんだった。
出社前に食パンを頬張りながら記事を流し読みした私――高藤真姫は、感慨深い思いに包まれながらぽつりと呟く。
「小出くん、引退するんだ……」
学生時代、坊主でさえなければ結婚したい男No1に選出されるに違いないと力説していた友人の姿を思い出し、苦笑いを浮かべた。
一度バットを振るえば、どんなに追い込まれたとしても必ずホームランを打つまで粘り続ける。
そんな彼はいつしかホームラン王子と呼ばれ、たちまち野球界のヒーローになった。
しかし、近年は怪我に苦しみ、まともに試合へ出られずに二軍落ち。
それでもしつこくマスコミに追いかけ回されたせいなのかは定かではないが、こうして現役引退が正式に発表されたのであった。
「これから、どうするんだろ……」
生まれてから野球一筋で生きてきた人間が大好きなスポーツを止めて、どうやって生計を立てていくのだろうか?
現役時代の貯金が山ほどあれば当面の生活費はなんとかなるだろうが、ずっと療養しているわけにはいかないだろう。
怪我の治療だって、お金がかかるのだから。
「まぁ、私には関係ないか……」
同じ高校に通っていた同級生と言うだけで、彼との関わりはほとんどなかった。
同窓会で顔を合わせることがあったとしても、平々凡々なOLの私とは違って、あちらは超有名人。
自分のような人間が心配するだけ損でしかないし、恐怖しか感じないだろう。
私は新聞を綺麗に畳んでゴミ箱に投げ捨てると、仕事に向かった。