ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
「こ、小出くん……?」
「おー。奇遇だな」
「こ、こんにちは……」
「待ち人の姿が見えないからって、まさか帰ろうとしてたわけじゃないよなぁ? ん?」

 文句があるなら言ってみろと遠回しに告げる声とともに、腕の中から逃げていかないように抱きしめる力を強められてしまえば、ドタキャンなどできるわけがなかった。

「あ、当たり前でしょ……?」
「そうだよな? よかった!」

 私の発言を聞いた彼は当然のようにトランペットが収納されたトランクケースを腕の中から奪い取ると、満面の笑みを浮かべてバッティングセンターの中に向かって歩き出した。

「私のトランペット……」
「すぐそこではあるけどさ。重いだろ? 持つよ」
「そんなこと、気にしなくてもいいのに……」
「ちょっとくらい、いいところをアピールさせてくれよ。デートなんだからさ?」

 彼の口から思わぬ発言が飛び出してきて、面食らってしまう。
 そんなこと、想像もしていなかったからだ。
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